主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 85
【目的】
高齢者では,退行性変化による筋力低下や関節可動域制限,関節感覚機能低下により日常生活に制限を及ぼすだけでなく,転倒や歩行障害を引き起こす.転倒発生には運動機能低下が大きく関与しており,高齢者の運動機能面への介入研究は多く,その有用性も多く報告されている.U ボードwork® も姿勢矯正,歩行時の歩容の改善,バランス能力の向上,足関節のアライメント矯正による疼痛の軽減などを目的として開発されたものであるが,その有効性を検証した報告はない.本研究の目的は,虚弱高齢者にU ボードwork® が有効であるかをランダム化比較試験により検討することとした.
【方法】
対象は,当法人の通所型サービスに参加している95 名中,認知機能に問題がなく研究への参加の同意が得られた20 名(男性7 名,女性13 名,平均年齢79.6 歳± 5.9 歳,要支援1:2 名,事業対象者:18 名)であり,通常のサービスを利用する群(対照群)10 名と,自宅でU ボードwork® を実施する群(介入群)10 名にランダムに振り分けた.介入期間は12 週間で,両群ともに週1-2 回,当事業所の半日型の通所プログラムを実施した.介入群へはU ボードwork® の指導を行い,実施方法を示したパンフレットを配布.自宅でも実施してもらい,介入期間は実施カレンダーを配布し,セルフモニタリングを行った.記録した内容を利用時に回収し,実施状況の把握,フィードバックを理学療法士より行った.評価項目は,痛み,転倒リスク,心理面,運動機能,身体活動量とした.痛みは,その有無と最も痛みが顕著であった部位のNRS を聴取した.転倒リスクは鈴木らの転倒アセスメント,心理面はHADS,運動機能は両足関節の背屈角度,握力,開眼片脚立位,椅子起立時間,TUG で評価した.身体活動量は1 軸加速度計Lifecorder GS を用いて評価し,介入前後1 週間の平均歩数と1-3,4-6,7-9Mets の各運動強度別平均活動時間を算出した.分析は,介入前の各変数の群間比較に対応のないt 検定,χ 2 検定を用いた.介入効果の検討は対応のあるt 検定,2 要因分散分析を用いて各群の交互作用を検討した.
【結果】
介入中の中止例は介入群1 名,対照群1 名,通所サービスへの参加率はそれぞれ介入群89.9%,対照群88.2% であり,脱落率と参加率に有意差を認めなかった.中止例を除いた介入前の対象者属性と評価項目全てにおいて,2 群間に有意差を認めなかった.介入群の自宅でのU ボードwork® 実施率は93.0%であった.介入群では,転倒リスク,両足関節の背屈角度,椅子起立時間,TUG で有意な改善を認めた.対照群ではTUG で有意な改善を認め,身体活動量1-3Mets 活動時間で有意に低下していた.一方,両側足関節背屈角度において交互作用を認め,対照群は介入前後で変化はないものの,介入群では有意に改善していた.
【考察】
介入群の自宅でのU ボードwork® 実施率は93.0%と高い割合で実施しており,虚弱高齢者に対するセルフエクササイズとしても有用であることが示唆された.また介入群においては転倒リスク,運動機能面の改善が認められ,中でも両足関節背屈角度の変化に交互作用を認めたことから,足関節の可動性を改善することに有効であることが示唆された.今回の結果より,虚弱高齢者に対するU ボードwork® は,運動機能面に対して一定の効果を認めた.しかし,対象者が限定されていたため,今後は対象範囲を拡大し,どのような疾患や機能障害に有効であるのかを検討していく必要がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り行われた.また、事前に対象者からデータを使用する事への同意を得た上で、個人情報保護など十分な説明を行い実施された.