主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 86
【目的】
バドミントンのグリップを握る際、手首の返しを早くする為、145 指把持が推奨され上腕骨外側上顆炎の予防につながるとされる。上顆炎の原因となる短橈側手根伸筋(ECRB)の筋活動の割合を手関節の角度、握り方を変え握力測定を行い表面筋電図を用いて算出し検討を行った。
【方法】
対象は上肢関節疾患の既往のない健常男性20 名、年齢21.78 ± 4.79 歳、身長168.9 ± 5.9 ㎝、体重66.5 + 11.1 ㎏。実験1として、椅子座位 掌屈60° 30°中間位 背屈30° 60°の手関節の各角度で握力測定を行いその際個人のECRB の筋活動量を表面筋電図を用いて測定した。実験2 として通常最大筋力が発揮される手関節背屈30 度の角度で座位にて2 種類の握力測定((1)第123 指把持、(2)第145 指把持)を行い、ECRB の筋活動量を表面筋電図を用いて測定した。握力測定は、椅子座位 肘伸展、前腕回内外中間位とした。表面筋電図の測定は、酒井医療EM -601 を使用しサンプリング周波数は1000 Hzとした。筋活動量は徒手筋力テストにての最大筋力発揮時の筋活動量を測定し正規化した。実験1 では統計学的分析には、測定肢位と測定筋の筋活動量間の二元配置分散分析および多重比較検定(Boneferroni 法)を、実験2 では、2 種類の握力体重比の比較にWilcoxon の符号付順位検定を、ECRBの筋活動量の比較には対応のあるT 検定を用い有意水準は5%未満とした。
【結果】
実験1、ECRB の筋活動量の比較では背屈30°で最高値を示したが各角度との比較で有意差は認めなかった(p > 0.05)。実験2、背屈30 度で第123 指把持と第145 指把持の握力体重比では第123 指把持(平均0.295 ± 0.079)が第145指把持(平均0.143±0.068)に比べて有意に高値を示した(p=0.000)。筋活動量の比較でもECRB123 指把持(平均0.5003 ± 0.22098)がECRB145指把持(平均0.3246 ± 0.21329)に比べて有意に高値を示した(p = 0.006)。
【考察】
上腕骨外側上顆に起始する伸筋群のうち高頻度に損傷される部位はECRB 起始部が多いと報告され、組織学的には炎症所見ではなく起始部に繰り返しかかる張力ストレスにより生じる筋線維の微細断裂に対する創傷治癒機転が不完全なまま停滞した状態と考えられる。解剖学的にもECRB の筋腹の長さは個体により異なるが、前腕部の遠位1/3 部位付近まで存在し他の前腕橈側々の伸筋群と比べても幅は広い為、ストレスを受けやすい。実験1、手関節を背屈に作用するECRB の各角度の比較では背屈30°で最高値を示したが他の角度との比較で有意差は認めなかった。5指把持の場合、第2,3 指のCM 関節の固定作用が十分発揮され為、手関節の角度が変化しても筋活動量に有意差を認めなかったと思われる。実験2 の結果で第123 指把持が第145 指把持に対して握力体重比、筋活動量とも有意差を認めた。ECRB の筋の停止部は第3 中手骨底の背側面であるので第123 指で把持した場合、強く握れば握る程、CM 関節の固定作用が高まり第145 指把持に対して有意差を認めたと思われる。上腕骨外側上顆炎に対する治療は、ECRB 起始部へのストレスを軽減させ、疼痛緩和をはかることが重要である。その予防効果には手関節の角度はさほど関係なく、過度に第123 指で握り過ぎないことでECRB の筋力、筋活動量が抑制され予防につながることが示唆される。今回は握力測定肢位として椅子座位 肘伸展、前腕回内外中間位としたが、肘関節・前腕の肢位を変えることで計測したECRB の筋活動量がどう変化するか検討する必要がある。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究実施に際し、対象者に研究についての十分な説明を行い、同意を得た。