主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 98
【はじめに】
転倒恐怖感を有する高齢者は,活動量が低下すると言われている(Elizabeth,2008).鈴木(2010)は正のフィードバック効果をもたらす言葉がけは,セルフ・エフィカシーの向上に有効であると報告している.また,加速度計は臨床で簡便に使用可能であり,歩行状態を可視化し,理解をする上で有用な方法とされている(香川, 2009).今回,転倒恐怖感を訴え移動形態の改善に難渋した症例に対し,加速度計を使用したフィードバックを行うことで,移動形態の改善が図られた.
【対象と方法】
70 歳代女性,転倒により右大腿骨頸部骨折を受傷し,人工骨頭挿入術を施行.術後17 日に当センター回復期病棟に入棟.歩行時に疼痛はなく,歩行器を使用して病棟内歩行自立していた.歩行補助具の変更を検討する段階で,変更を拒否する発言を認めた.研究デザインはABA 試験とし,入棟10 日より開始した.各期はそれぞれ14日とし,全期間を通して通常の理学療法を行った.各期の1 日目およびA2 期の14 日目にTUG,Falls Efficacy Scale(以下,FES)を測定した.B 期の4 日目と11 日目に加速度計(ロジカルプロダクト社製)を使用してフィードバックを行った.加速度計を第3 腰椎棘突起に貼付し,10m 歩行時の加速度データを取得した.加速度データの鉛直及び左右成分からLissajous Figure(以下,LF)の作成,LF の第1・第2 象限の矩形面積からLissajous Index(以下,LI)を算出した.そして,症例にLF のフィードバックを行い,歩行時の左右対称性について説明した.また,電子カルテの記載から,歩行形態,内観や病棟場面での訴えを抽出した.
【経過と結果】
A1 期7 日目にT 字杖歩行が自立したが,A1 期10 日目に「右足が沈み込む気がする」と訴えられ,本人希望にて両側T 字杖使用に変更した.B 期7 日目に自発的にT 字杖を1 本へ変更した.A2 期3 日に病棟内独歩自立となった.評価結果をA1 期1 日目/B 期1 日目/A2 期1 日目/A2 期14 日目の順に記載する.TUG:13.06 秒/10.72 秒/8.81 秒/8.53 秒.FES:25 点/27 点/29 点/33 点.LI の結果をB 期4 日目/B 期11 日目の順に記載する.LI:10.5%/3.1%.
【考察】
本症例は「右足が沈み込む気がする」と不安感の訴えがあり,本人希望にてT 字杖1 本からT 字杖2 本使用に変更した.人工股関節全置換術患者の術後に床反力鉛直成分が小さくなるとの報告(大内,1979)があり,本症例においても術後の不安感により,床反力を小さくした戦略をとっていたことが考えられる.しかしながら,LI は低く歩容は安定しており,左右対称性が高かった.先行研究によると,歩行時の鉛直方向の加速度及び床反力との間には相関があるとの報告がある(大坂,2011).これらのことから,症例にLF を見せることで,歩行時の左右差は少なく,術側も非術側と同じくらい荷重できていることをフィードバックすることで,T 字杖を2 本から1 本へ変更しようという意欲が生まれたのではないかと考える.一方,転倒恐怖感を表すFES はA1 期1 日目からB 期1 日目,B 期1 日目からA2 期1 日目は利得が2 点であり,A2 期1 日目からA2 期14 日目は利得が4 点であった.移動形態の改善が生じた後に,FES の改善が生じていた.大腿骨頸部骨折後に集中的なリハビリテーションを受けた高齢者では,FES とADLの変化との間に有意な相関がなかったとの報告がある(Petrella, 2000).これらのことから,本症例において,LF を使用してのフィードバックは,移動形態の改善後に転倒恐怖感の軽減が得られやすいことが示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守した上で対象者に十分な説明を行い,同意を得た.