九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: P-53
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ポスター9
起立性低血圧により離床に難渋した純粋型自律神経不全症―理学療法プログラムの再考―
藤井 日名子山本 広伸
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抄録

【はじめに】

起立性低血圧( 以下OH) は様々な要因でおこり、症状が重度になると日常生活に支障を来す。原因別による生命予後について、ガイドライン等に記載はあるが、純粋型自律神経不全症を原因とするOH の機能的、社会的予後について言及したものは少ない。本症例はペースメーカ植え込み術後からOH による失神を合併し、純粋型自律神経不全症と診断された。前医と当院で9 ヵ月間、ガイドラインに沿った治療および理学療法が行われた。不定期な失神により、理学療法以外の時間はべッド上での生活に留まっていたが、体育座り肢位を利用することでリクライニング式車椅子での生活も可能となった。

【症例】

80 代女性。発症前のADL は自立しており、独居生活であった。X-1 年12 月に心不全を伴う発作性心房細動を発症し、A 病院でカテーテルアブレーションが実施された。X 年1 月に洞不全症候群を発症し、永久ペースメーカ植え込み術が実施された。術後から起立性低血圧による失神が出現し離床が困難となった。精査により、純粋型自律神経不全症と診断された。ガイドラインに沿った治療および理学療法が6 ヶ月間行われ、治療継続目的で当院へ転院となった。初期評価時のADL はFIM が65 点、BI が30 点と低下していた。安静臥床時の血圧は152/98mmHg、心拍数85回/分(ペースメーカ調律)であった。前医情報から40 秒以内で完結する起立、歩行練習を行った。歩行後のリクライニング式車椅子上、長坐位肢位での血圧測定時に失神がみられたが、フラット肢位になると直後に意識は回復し、血圧は74/43mmHg、心拍数は85回/分であり心電図変化は見られなかった。3 分後に血圧は138/72 mmHg へ回復した。理学療法時のリスク管理は主治医の具体的指示に従った。

【経過】

歩行は不定期に出現する失神により実用性は低かった。治療は前医からの薬剤調整を継続し、1 日10g の塩分摂取、睡眠時の10 度の頭部挙上、腹帯及び弾性ストッキングの使用を継続した。さらに原因疾患は異なるが、先行報告で有用とされた1. 段階的なヘッドアップ2. 起立前の水分補給3. 起立前の両下肢の等尺性収縮運動4. 長座位と起立、着座の反復5. 歩行後の長坐位肢位を行いながら離床を進めた。しかし、介入2 週目に起立性低血圧が増悪し、端坐位や車椅子への移乗が困難となる日が増えた。上記プログラムに加え食事内容を見直し摂取塩分増量のため、ねり梅を毎食追加した。経過中、長坐位より体育座り肢位(股関節、膝関節屈曲位) では、血圧低下の程度が少なく回復が早かったため、プログラムに体育座り肢位を追加しその後の理学療法を継続した。3 ヵ月の介入後、退院時のFIM は68 点、BI は30 点と大きな変化は見られなかった。実用歩行には至らなかったが、リクライニング式車椅子での生活を獲得し施設入所となった。

【考察】

本症例はガイドラインに準じた治療を9 カ月間継続し、手術前の実用的な歩行には至らなかったが、リクライニング式車椅子での生活が可能となった。血圧低下時の対応として体育座り肢位が有効であった。体育座り肢位が長坐位時に比べ血圧低下の程度が少なく回復が早いのは、腹圧の作用によるものと推測する。体育座り肢位は、長坐位のように椅子を準備する必要やレッグレストを挙げる作業が省かれるので容易に行え、また患者自身でも実施できる。今後、起立性低血圧を有する患者の離床プログラムとして体育座り肢位の活用を検討したい。

【倫理的配慮,利益相反】

ヘルシンキ宣言に基づき説明を行い、同意を得た。

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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