主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【目的】
大腿骨近位部骨折( 以下PFF) は, 高齢者の骨折に最も多い疾患であり,当院ではクリニカルパス(以下パス)を用いて治療の円滑化を図っている.特に回復期リハビリテーション病棟( 以下回復期) では, 日常生活動作( 以下ADL) の早期向上が求められる. しかし, 様々な理由から在院日数の延長や受傷前の生活に戻れない場合もある. そこで, 当院の回復期入棟時( 以下入棟時) のADL や退院調整に関わる因子などを調査し, 当院パスを基に在院日数が延長する要因を検討する事とした.
【対象】
2020 年1 月から2021 年8 月の間に当院でPFF の診断にて手術加療し,回復期療養後,自宅退院した65歳以上の患者55名(平均年齢82.5±7.6歳,男性11 名女性44 名). データ欠損や感染症関連により療養が延長した者は,除外した.
【方法】
患者属性として同居家族の有無, 介護保険認定の有無, 居住地( 市内・市外) を記述統計に基づき算出した. 当院パス術後7 週(49 日) を境に, パス内に退院した群( 以下パス内) とパス超過した群( 以下パス超) の2 群に分類した. 2 群間の術後在院日数, 年齢,ADL( 入棟時・退院時FIM 運動項目合計, FIM の運動項目の中より入棟時に主として下肢を使用する下衣更衣, トイレ動作, ベッド移乗, トイレ移乗, 歩行の点数), 認知機能(HDS-R) を正規性の有無に従い,Mann-Whitney のU検定, t検定を実施した. 次に歩行能力は先行研究を参考に, 平行棒群( 歩行困難者, 歩行に介助が必要な者), 歩行器以上群(10 m以上歩行が可能な者) でχ2 検定を実施した. 統計解析はR -3.6.3 を用い, 有意水準は5%とした.
【結果】
患者属性( パス内/ パス超) は, 居住地( 市内53%/ 市内48%), 介護保険(有25%/有48%),同居家族(有68%/有63%)であった.術後在院日数は, パス内28 名,41.3 ± 7.5 日, パス超27 名,64.3 ± 11.8 日で有意に短かった(p <0.01).ADL は, 入棟時・退院時FIM 運動項目, ベッド移乗,トイレ移乗, トイレ動作でパス内が有意に高く, 年齢はパス超が有意に高かった(p <0.01). χ2 検定の結果は, パス内はパス超に比べて歩行器以上群が有意に多かった(p <0.01).
【考察】
本研究より入棟時の歩行能力は, パス内に退院できる要因となることが分かった. 術後1週目の歩行器歩行獲得が, その後の杖歩行獲得に影響することも報告されており, 本結果を支持するものになった. また2群間には,移乗動作( ベッド・トイレ) やトイレ動作のFIM に有意差を認めた. これらの動作には, 立位保持能力, 片脚支持期での方向転換, 下肢の荷重力, バランス能力が必要となる. 移乗・トイレ動作が入棟時に可能であることは,早期に歩行やADL 向上が得られやすいと考える. またパス超は, 要介護認定者の割合がパス内より多い傾向であり, 受傷前より何らかの介護, 支援を要していた可能性がある. このことより入棟時歩行が平行棒群かつ要介護認定者は, パス超となる可能性があり, 入棟時早期からの家族またはケアマネージャーを通じた介護保険サービスの調整や支援も必要になることが考えられた.
【まとめ】
自宅退院したPFF 術後患者の当院パスを指標とした在院日数においては,入棟時の年齢,ADL に加えて歩行能力と介護保険認定の有無が重要である事が分かった.
【倫理的配慮, 説明と同意】
本研究は, 当院倫理審査委員会による承認( 承認番号:2021-B18) を得て実施した.