九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: O-31
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口述6
臨床実習における「学習意欲」と「睡眠状態」との関連について
永野 忍杉本 明子
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抄録

【はじめに,目的】

永野・杉本(2021)において,理学療法士の教育過程にある臨床実習では,臨床実習前,臨床実習中,臨床実習後に共通して,学習意欲と睡眠状態との関連がみとめられた.学生が高い学習意欲をもって臨床実習に臨むためには睡眠状態を良好に保つことが必要であると示唆されたが,サインプルサイズの検討が不十分であり結果の信頼性に課題があった.また臨床実習中の睡眠状態に関連する要因を明らかにできていなかった.本研究は,臨床実習中の学意意欲と睡眠状態の関連を再調査により明らかにし,臨床実習中の睡眠状態に影響を与える要因を検討するための基礎資料を得ることを目的とした.

【方法】

臨床実習中の学習意欲と睡眠状態の関連をみるために,臨床実習を履修した学生171 名に対して質問紙による調査を実施し,そのうちデータの欠損値を含まない165 名(男性95 名,女性70 名,平均年齢22.68 ± 4.10歳)を分析の対象とした.学生には最も履修終了時期が近い臨床実習中の状況を想起してもらい,学習意欲は達成動機測定尺度(堀野緑,1987)を使用して自己充実的達成動機(Self-fulfilment:sf)と競争的達成動機(Competitive:cp)を測定し,睡眠状態はピッツバーグ睡眠質問票(日本語版)(土井由利子・蓑輪眞澄他,1998)を使用して測定した.達成動機測定尺度は得点が高いほどその傾向が強いことを表し,ピッツバーグ睡眠質問票(日本語版)は得点が低いほど睡眠状態が良好であることを表す.学生の基本属性としては年齢と性別を調査した.得られたデータの統計解析においてまず,使用した尺度の内的整合性の検討としてCronbach のα係数を算出した.次にsf,cp,睡眠状態の関連をみるためにSpearman の順位相関係数を算出し,これらの変数内で求められる2 変数以外の変数の影響を制御した偏相関係数を算出した.統計解析には、SPSS Statistics version28(IBM 社製)を用いた.なお,有意水準は5%とした.

次に,臨床実習中の睡眠状態に関連する要因を検討するために,臨床実習を履修した学生10 名(男性6 名,女性4 名,平均年齢21.1 ± 0.30 歳)に対して臨床実習中に睡眠状態に影響を与えた要因を想起させる質問について半構造化面接を実施した.質問内容は,質問1「臨床実習中に睡眠状態が良い時はどのような時でしたか」,質問2「臨床実習中に睡眠状態が悪い時はどのような時でしたか」,質問3「臨床実習中に睡眠状態が悪い時にどのような支援をしてもらうといいですか」の3 つであった.半構造化面接にて得られた自由回答をもとにテキストマイニングと共起ネットワーク分析を実施し,共起性のある語句同士を使用して要因を検討した.統計解析には,KH-coder を用いた.

【結果】

sf,cp の質問項目のCronbach のα係数は0.80 以上であった.sf,cp,睡眠状態の関連をみるためにSpearman の順位相関分析と偏相関分析を実施した結果,sf と睡眠状態とに弱い負の相関が認められた(r=-0.385,p<0.001).次に半構造化面接の質問1 の自由回答から「次」「休み」との間に強い共起性が認められた.質問2 の自由回答からは,「実習」「課題」「出す」「指導」との間に強い共起性が認められた.質問3 の自由回答からは,「先生」「理学」「療法」との間や,「相談」「分かる」「友達」との間に強い共起性が認められた.

【考察】

臨床実習中の学生の学習意欲には睡眠状態が関連することが示唆され,先行研究結果が支持された.臨床実習中の学生の睡眠状態が良くなるには「休み」が,悪くなるには臨床実習中の「課題」や「指導」が,臨床実習中の睡眠状態の改善には「先生」や「相談」が影響を与えることが示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,筆頭演者所属の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:21006).

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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