主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに, 目的】
人工膝関節単顆置換術( 以下,UKA) は, 人工膝関節全置換術( 以下,TKA) と比較し低侵襲でかつ術後早期の機能改善が期待されている. 低侵襲であることから炎症も最小限で経過し, それに伴い術後の歩行能力も早期回復が予想される. しかし当院UKA 施行例では, 術後のC 反応蛋白質( 以下,CRP 値) が正常化しても膝の機能改善, 歩行能力の改善が遅れる例をしばしば経験する. そこで今回, 当院のUKA 術後患者を対象に術後の炎症がどれ程術後の経過に影響しているのか検証を行った.
【方法】
対象は2020 年5 月から2022 年3 月までに当院でUKA を施行された患者96 名の内, 感染など二次的障害を有した患者や重度の認知症患者を除く89 名とした. 炎症の有無の判断には術後2 週のCRP 値とし, 他因子による炎症の可能性を除外するために膝蓋骨直上の周径( 以下, 周径値) も選択し,CRP 値と術後腫脹の関連性を明確にした上で研究を進めた. 機能評価として,Numerical Rating Scale( 以下,NRS), 膝関節屈曲可動域( 以下,ROM),膝関節伸展筋力,10m 歩行,Timed Up & Go Test( 以下,TUG‐T) を挙げた. 上記項目を術前と退院時に評価した. 歩行能力の指標としては歩行器歩行自立日と杖歩行・独歩自立日( 以下, 実用歩行獲得日) とした. なお筋力は徒手筋力計(HHD:酒井医療製モービィMT-100) を使用した. これらの評価を基に, 術後2 週時点で炎症が遷延した群34 名58 膝( 以下, 不良群) と炎症が正常範囲となった群55 名82 膝( 以下, 良好群) の2 群に分け, 術前・退院時それぞれで比較した. 統計学的解析は, 不良群・良好群の2 群間をMann-Whitney U 検定を用いて比較した. なお, 有意水準は5%未満とした.
【結果】
結果を( 不良群/良好群) の順に記載する.
平均年齢は(74.7 ± 9.2 歳/73.6 ± 7.0 歳), 平均在院日数は(28.4 ± 4.2日/28.0 ± 3.2 日) であり, いずれも有意差はなかった. 今回の指標となるCRP 値(0.7 ± 0.3mg/dl /0.2 ± 0.1mg/dl) は有意差を認め、それと並行して周径値(40.9 ± 3.9㎝/38.8 ± 2.7㎝) も不良群が有意に高値であった. 身体的因子としてBMI(28.1 ± 5.9kg/m 2 /25.7 ± 2.7kg/m 2 ) に有意差を認めた. 身体機能は, 退院時の10m 歩行(10.6 ± 3.6 秒/9.0 ± 2.6秒)・TUG-T(12.6 ± 5.3 秒/10.3 ± 3.2 秒) に有意差を認めた. 上記2 項目はいずれも術前に有意差はなかった.NRS, 膝屈曲ROM, 膝伸展筋力には術前・退院時共に有意差はなかった.歩行能力は,歩行器歩行自立(3.6±1.5日/2.9±1.1日) に有意差を認めたが, 実用歩行獲得日(12.0 ± 6.6 日/10.0 ± 4.3 日) に有意差はなかった.
【考察】
まずCRP 値について, 同時期の周径値にも有意差を認めたことから今回のCRP 値の結果はUKA 術後に由来するものと考えられた.
身体機能面では10m 歩行とTUG-T に有意差を認めた. ただし実用歩行獲得日に有意差はなく, 歩行器歩行自立日のみ有意差を認めたことから, 炎症の関与が大きい術後早期に影響し, 最終的な実用歩行獲得には炎症の影響はない事が示唆された. また今回は不良群の方が有意にBMI 高値を認めた. 過去の報告から肥満と炎症の関連性は明らかにされており, 本研究でも同様の傾向が認められたことから,BMI 高値の場合は術後炎症の遷延化が生じる可能性が示された. しかし今回の結果では, 歩行能力の改善に差があったものの, それ以外に有意差はなかったことから, 術後炎症という器質的な問題だけが術後機能改善の阻害因子になるわけではない事が示唆された.
【結論】
今回炎症の有無が術後の歩行能力, 特に術後早期の歩行に影響することが示唆された. しかし炎症と関連が予想される疼痛, 膝屈曲ROM, 膝伸展筋力には関連性はなく, 炎症が疼痛の遷延化やROM 制限を来す直接的な原因でないことが考えられ, 術後炎症が必ずしもUKA 術後経過に影響しないことが示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の調査はヘルシンキ宣言の規定に従い実施し,研究の趣旨,個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た.