九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: O-46
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口述8
ストレッチング持続時間が柔軟性に及ぼす影響について:メタ解析による検討
髙橋 更紗烏山 昌起河上 淳一大楠 珠未
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抄録

【目的】

スタティックストレッチング(Static Stretching:SS) は軟部組織における柔軟性の改善と関節可動域の維持・向上が期待でき, 様々な場面で用いられる. 先行研究では, 柔軟性に対するSS の介入効果が検討され, SS は柔軟性の改善に有効であると示されている. SS 持続時間と効果の関連性について, 持続時間と効果は依存すると述べた報告や異なる持続時間(30・60 秒) でも効果に差を認めなかったとの報告も散見され, SS 持続時間が柔軟性に与える効果は十分に分かっていない. そこで, 本研究の目的はSS 持続時間が柔軟性に及ぼす影響についてメタ解析を用いて検討することである.

【方法】

本研究はPRISMA 声明に可能な限り準拠した. データベースは, 医学中央雑誌とPubMed をもとに2021 年7 月までの論文を検索した. 検索式はリサーチクエスチョンのPICO に則り作成した. 適格基準は, (1) 健常成人に対するSS 持続時間の効果が検証されている, (2) 関節可動域など柔軟性の測定項目が評価されている, (3) 研究デザインが無作為化比較試験である,(4) 言語が英語または日本語とした. 主要評価項目は関節可動域や柔軟性評価項目とした. メタ解析はSS 持続時間の効果を検証するために固定効果モデルを使用した. 研究間の異質性の評価はI2 統計を用いた. 結果は平均値差(Mean Difference;MD) と95%信頼区間(Confidence Interval;CI) を採用し, 全ての有意水準は5%とした.

【結果】

最初のデータベース検索で375 編が抽出され, そのうち5 編が適格基準を満たした. 5 編の研究には合計264 名( 男性142 名、女性122 名) の被験者が含まれ, その平均年齢は35.4歳(21歳~84歳)であった. メタ解析の結果, SS30 秒群(51 名) の膝伸展角度は対照群(35 名) に比べて有意に改善した(MD 7.72°[95%CI,3.94 ~11.51;I2=0%;P <0.01])。次にSS60 秒群(50 名) の膝伸展角度は対照群(35 名) に比べて有意に改善した(MD 7.71°[95%CI,4.30 ~11.11;I2=0%;P <0.01])。最後にSS30秒群(51名)とSS60秒群(50名)の膝伸展角度は有意差を認めなかった(MD−0.26°[95%CI,−3.30 ~2.78;I2=0%;P =0.87]).

【考察】

本研究では, SS30 秒とSS60 秒群の柔軟性は対照群と比較して有意に改善することが分かった. 先行レビューにおいてもSS 介入群は対照群と比較して柔軟性が向上したと報告しており, 本研究は同様の結果が得られた. 本研究の新たな知見として, SS30 秒群とSS60 秒群のストレッチング効果は差が認められないことが分かった. この要因としては, ストレッチングに伴う筋の粘弾性変化が挙げられる. 先行研究では, SS 開始後に筋の粘弾性は低下し, その変化は時間と共に限界を迎えると報告されている. これらの観点から, ストレッチング効果も限界点が存在し, SS30 秒とSS60 秒は同等の効果が得られたと推測した.

【結論】

本研究の結果より, SS の有無は柔軟性の改善に影響を与えることが明らかとなった. さらに, SS30 秒とSS60 秒の異なる持続時間は同等の効果が期待でき, これらはSS を提供する際の一助になると示唆された.

【倫理的配慮, 説明と同意】

本研究はシステマティック・レビューであり, 倫理的配慮を必要としなかった.

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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