主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに、目的】
急性期医療では,急性疾患や慢性疾患の急性増悪等で緊急入院となる患者や悪性腫瘍や高度な専門的手術・治療を行う為に予定入院する患者が存在する.また近年,急性期医療でも65 歳以上の高齢者の割合は年々増加傾向で,今後も高度な医療を必要とする65 歳以上の高齢者が増加することが予想されている.高齢者と入院の関係では,入院は虚弱進行させる要因として報告されており,高齢入院患者の35%は退院時にADL が低下していたとの報告がある.その為,急性期病院における高齢入院患者の機能障害の予防,日常生活動作能力(以下,ADL)の維持,改善は重要な課題であると考えられるが,高齢入院患者のADL の低下の要因について,フレイルやサルコペニアの視点を含めた運動・認知・精神機能の多面的な側面は明らかとなっていない.本研究では,急性期病院に予定入院となった高齢者のADL の低下の要因を多面的な側面で検討することとした.
【方法】
対象は,2021 年5 月17 日~2021 年8 月31 日までの期間に在宅より当院急性期病院に予定入院し,調査に同意が得られた65 歳以上の高齢者155 名(平均年齢75.1 ± 5.6 歳)とした.評価項目は,基本属性(年齢・性別・Body Mass Index・持参薬の種類),入院期間中の経過(手術・リハビリテーション介入・合併症・せん妄・尿道留置カテーテル挿入の有無,ADL),入院時の運動・認知・精神機能,フレイルの有無,サルコペニアの有無とした.運動機能では握力,大腿四頭筋筋力,椅子起立時間,Time up and Go,開眼片脚立位時間,10m 歩行時間の7 項目を測定し,認知機能ではMini-Cog,精神機能ではGeriatric Depression Scale-15 を測定した.フレイルは25 項目から構成され基本チェックリスト(以下、KCL)を用い,先行研究をもとに8 項目以上である者をフレイルと判定した.サルコペニアは,AWGS が2019 に報告した診断方法を使用した.分析は,各評価項目についてMann-Whitney U 検定またはカイ二乗検定を用いて群間比較を実施した.その後,ADL 低下の要因について交絡因子を制御した上で,ロジステック回帰分析を用いて検討した.
【結果】
入院期間中にADL が低下したADL 低下群は15 名(10%)であり,ADL維持群は140 名(90%)であった.ADL 低下群とADL 維持群の群間比較の結果,ADL 低下群はKCL でフレイルと判定される患者の割合が有意に高かった.また運動機能では,握力は有意に低値を示し,10m 歩行時間では有意に高値を示した.さらに,入院期間中の合併症・せん妄の発症の割合もADL 低下群の方が有意に高い割合を示した.ADL 低下の有無を従属変数としたロジスティクス回帰分析では,KCL(オッズ比:0.227,95%信頼区間:0.061-2.996)と合併症(オッズ比:0.137,95%信頼区間:0.029-0.0654 とせん妄(オッズ比:0.018,95%信頼区間:0.001-0.349)が有意な変数として選択された.
【結論】
入院前はADL が自立していた高齢者においても,急性期病院に予定入院した場合には約10%程度はADL が低下することが示唆された.またADLが低下する高齢者は,入院時より握力や歩行能力などの運動機能が低下しており,フレイルを呈している可能性が示唆された.さらにはこれらの高齢者にとって,入院期間中の合併症やせん妄の発生はフレイル同様に大きなリスク因子である可能性が示唆された.
これらの結果により,急性期病院においても入院時からのフレイルのチェックは重要で,フレイルと判定された高齢者の合併症やせん妄発生の予防的な取り組みの必要性が示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に沿って実施し,所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:17)