九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題20[ 基礎 ]
高齢期の自発的かつ継続的な運動は概日リズムを整え、脳損傷後の神経修復力を高める
O-112 基礎
田中 貴士浦 大樹三次 恭平柳田 寧々古木 ほたる前田 拓哉上野 将紀
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p. 112-

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抄録

【目的】 脳が損傷を受けると重篤な機能障害が生じる。近年、損傷を免れた神経回路の再編が、脳損傷後の機能回復を促す重要なプロセスとして報告されてきた。我々は、脳損傷マウスにおける運動機能の回復には、皮質脊髄路の神経発芽による回路再編が重要であり、自発的な走行運動が発芽を効果的に促すことを示してきた。しかし、これまでの研究成果の多くは若齢期の損傷動物の研究に依拠しており、脳損傷患者の多くが高齢者である現状とは乖離がある。本研究では、高齢マウスを用いて、自発的かつ継続的な運動が脳損傷後の神経発芽や運動回復を促すのか検証し、そのメカニズムの解明を目的とした。

【方法】 本研究は、所属機関の動物実験委員会の承認(承認番号:動22-02、2018-21、2021-4)を得て実施した。

 実験には、C57BL/6Jの雄の若齢マウス5匹(10~15週齢)および高齢マウス65匹(22~25月齢)を用いた。高齢マウスを偽手術群、脳損傷の非運動群、脳損傷の運動群の3群にランダムに振り分け、麻酔下で片側運動野の脳損傷を作製した。運動群の自発的運動は走行ホイール(室町機械)を用いて実施し、各マウスのホイール回転数を記録した(24時間/日、7日/週)。運動は、脳損傷の4週前から開始し、損傷4週後までの計8週間継続した。次に、非損傷側の運動野へ神経標識剤を注入することで、頸髄での皮質脊髄路の神経発芽を組織学的に評価した。さらに、脳損傷から1週毎に麻痺側前肢の運動機能を評価した。統計学的解析として、2群間の検定では正規性および等分散性の検定の後、差の検定を行った。多群間の検定には一元配置分散分析とTukey-Kramer検定、運動機能のスコア比較には二元配置反復測定分散分析とBonferroni検定を実施した。最後に、脳損傷2週後に非損傷側運動野のRNAを抽出し、運動群と非運動群の脳内遺伝子を網羅的に解析・比較した。

【結果】 高齢マウスでは脳損傷後の皮質脊髄路の神経発芽が生じず、運動機能が回復しない一方、自発的運動が発芽を増大させ(p<0.01)、機能回復を促す(p<0.05)ことが示された。脳内遺伝子の解析の結果、運動群では概日リズムに関連する遺伝子に増加が認められた。さらに、自発的運動の継続が高齢マウスの昼夜の概日リズムを若齢期に類似したパターンに回復させることも明らかになった。

【考察】 高齢な脳損傷マウスでは、神経回路の再編に必要な皮質脊髄路の発芽がほとんど得られず、機能回復が困難であることが明らかになった。一方、自発的かつ継続的な走行運動が加齢により減少していた概日リズム遺伝子を増加させ、神経発芽や運動機能回復を促進させることが示された。

【まとめ】 自発的かつ継続的な運動は、加齢で低下する概日リズムや脳損傷後の神経修復力を回復させる効果がある可能性が示された。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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