主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 113-
【緒言】 生活のほとんどをベッド上で生活する入院患者(以下、寝たきり患者)へのリハビリテーション(以下、リハビリ)は、「最期まで人間らしさの保証」の1つとして「著しい関節の拘縮の予防」が重要とされている(大田2002)。関節拘縮の継時変化についてはいくつか報告がなされているが、倫理的問題もありリハビリ未介入での報告は見当たらない。
今回、関節可動域(以下、ROM)測定の定期評価を行っている症例に、COVID-19による病棟閉鎖でのリハビリ中止期間があり、リハビリ未介入期間のROM変化を捉えたので報告する。
【対象】 対象は当院療養病棟に入院する日常生活自立度Cランクに該当する意思疎通が困難な患者であり、COVID-19での病棟閉鎖によるリハビリ中止期間があった者とした。
【方法】 基本情報として、年齢、性別、入院期間、疾患名、月平均取得単位をカルテより調査した。ROM測定は、日整会・リハ医学会による「関節可動域表示ならびに測定法」に則って行った。ROM測定は、終末期ケアに関わりが多く、かつ他の関節拘縮からの影響が少ない、肩関節外転(以下、肩外転)、肘関節伸展(以下、肘伸展)、膝関節伸展(以下、膝伸展)、足関節背屈(以下、足背屈)とした。測定時期はベースライン(以下、BL)および3か月、5か月の3回行った。なお、4か月から5か月までの1か月間がリハビリ中止期間であった。
統計分析は、3回の測定結果にFriedman検定を行い、有意差のあった項目には多重比較Bonferroni法を行った。また、寝たきり患者のROM測定におけるMDC95を基準として、それ以上の悪化または改善した関節数を算出した。統計学的分析にはSPSSを使用し有意水準は5%とした。また、本研究はヘルシンキ宣言に則り、患者家族の同意を得て行った。
【結果】 対象関節は9名18関節とした。対象の平均年齢は84.1±9.8歳、女性4名男性5名、入院期間は1.1±1.2年であった。BLから4か月までの月平均取得単位は13.5±3.8単位であり、中止期間は0.6±0.5単位であった。リハビリ内容は、評価期間を通してROM訓練や座位訓練が主であった。入院の原因となった疾患は肺炎が4名であり、脳血管障害の既往は5名に認めた。各ROMの中央値(最大値-最小値)はBL/3か月/5か月で、肩外転65(145-40)/65(145-15)/55(115-20)、肘伸展-35(0--120)/-45(0--110)/-40(0--115)、膝伸展-40(0--100)/-40(0--110)/-60(-5--120)、足背屈-10(15--50)/-10(20--50)/-15(20--50)であった。Friedman検定では、肩外転と膝伸展に有意差があり、多重比較の結果より肩外転はBLと5か月で、膝伸展は3か月と5か月で有意差を認めた。また、ROMのMDC95以上の悪化/改善を認めた関節数はBLから3か月が16関節/14関節、3か月から5か月が25関節/9関節、BLから5か月が30関節/9関節であった。全症例で3か月から5か月でいずれかのROMの悪化を認めた。
【考察】 COVID-19によるリハビリ中止期間を含むROMの経時変化を追った。3回の測定結果より、3か月と5か月との間で膝伸展のみが有意な悪化を認めた。この要因としては、寝たきり患者の臥床姿勢は膝伸展制限があると常に膝屈曲位の姿勢を取りやすく、また日常のケアのみでは膝伸展運動を行う機会が少ないことが影響したと考える。しかし膝伸展以外でも、3か月から5か月において全症例のいずれかのROMにMDC95以上の悪化があり、長期的な寝たきり患者であってもリハビリ未介入は廃用性のROMの悪化を引き起こす事が示唆された。
本研究の限界として、3か月から5か月のROM測定はリハビリ介入と中止の期間が混在しており、純粋な廃用として捉える事が出来なかった。また、症例数が少なく具体的なROM変化の要因を示すことはできなかった。