九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題20[ 基礎 ]
腰部多裂筋がリフティング動作中に腰椎の動的安定化に及ぼす影響
O-116 基礎
福田 将史川田 将之竹下 康文中島 将武宮﨑 宣丞宇都 由貴松浦 央憲下世 大治木山 良二
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p. 116-

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抄録

【目的】 荷物の持ち上げ、持ち下げ動作を指すリフティング動作は、腰椎屈曲位で大きな負荷がかかるため、腰痛の原因の1つとして挙げられている(Blafoss, 2020)。安全にリフティング動作を行うためには、腰椎の安定化が不可欠であり、腰背部筋の中でも特に腰部多裂筋が寄与することが報告されている。これまで表面筋電計を用いた報告はあるが、その動的安定化のメカニズムは明らかになっていない。本研究では、腰椎の並進運動を許容した筋骨格モデルを用いて、リフティング動作中の腰部多裂筋による腰椎の動的安定化のメカニズムを分析した。

【方法】 対象は健常成人男性7名(年齢:22.4±0.9歳、身長:1.72±0.05m、体重:62.6±6.2 ㎏)とした。対象動作は肩関節0°・肘関節90°屈曲位にて10 ㎏の荷物を持った立位姿勢から4秒間で正面の高さ約15 ㎝の台に下ろす動作とした。動作中、膝関節は可能な限り屈曲しないように指示した。床反力計とモーションキャプチャーシステムOptiTrack Flex 13にて得られた情報を筋骨格モデルシミュレーションソフトAnyBody 7.3に入力した。

 本研究では、腰椎の並進運動を許容しない標準の筋骨格モデル(標準モデル)に加え、L4/5の並進運動を許容する筋骨格モデル(並進運動モデル)を作成し、2つのモデルから得られる結果を比較することで、腰椎の動的安定化のメカニズムを分析した。L4/5の並進運動は前後・内外方向へのL4椎体の並進運動と定義し、筋や靭帯、関節包によって制御する設定とした。

 筋骨格モデルシミュレーションにてL4/5の関節反力、左右の腰部多裂筋、最長筋、腸肋筋、腰方形筋の筋張力を算出した。関節反力はL5椎体のローカル座標系における圧縮力を算出した。筋張力はそれぞれL4椎体に付着する筋のみを対象とし、左右の平均値を算出した。圧縮力、筋張力は体重にて正規化した。動作時の胸郭前傾角度が30°、60°、90°の値を比較した。

 3試行の平均値を代表値とし、シャピロ・ウィルク検定の結果に基づいて、2つのモデルから得られた値を対応のあるt検定もしくはウィルコクソンの符号付順位検定にて比較した。有意水準は5%とした。

【結果】 並進運動モデルは標準モデルと比較し、いずれの肢位でも圧縮力が有意に大きかった(p<0.001)。腰部多裂筋と腸肋筋の張力もいずれの肢位においても並進運動モデルで有意に大きかった(p<0.001)。腰部多裂筋の張力は並進運動モデルで他筋に比べ特に高い値を示し、各肢位で標準モデルの17.8倍、9.3倍、5.9倍であった。

【考察とまとめ】 並進運動モデルでは標準モデルに比べ、L4/5の圧縮力と腰背部筋の張力が有意に大きい値を示した。特に腰部多裂筋の張力が大きい値を示したことから、並進運動の制御に大きく寄与することが示唆された。多裂筋は矢状面において、腰椎と平行に走行する線維やL4椎体から後下方に走行する線維を有している。体幹が前傾した肢位では、腰椎の関節面が前傾するため、上半身と荷物に作用する重力によって、L4/5に剪断力が生じる。多裂筋は走行を考慮すると、L4/5の圧縮力を高めるとともに、L4椎体を後方に牽引することで、腰椎の動的安定性に寄与すると考えられた。今後、様々なリフティング動作中の腰部多裂筋による腰椎安定化のメカニズムや腰部多裂筋のトレーニング方法について検討を進めていきたい。

【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は鹿児島大学桜ヶ丘地区疫学研究等倫理委員会の承認を受け(承認番号:220187疫)、ヘルシンキ宣言に基づいて研究を行った。対象者には事前に十分説明を行い、同意を得た。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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