主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 117-
【はじめに】 視神経脊髄炎(以下、NMO)は、重度の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする中枢神経の炎症疾患であり多彩な症状を呈し、再発と寛解を繰り返すことが特徴である。急性期治療後に麻痺の改善が乏しい場合は、重度の後遺症を残すことが多いと言われている。今回重度対麻痺、感覚障害、排尿障害を呈した抗アクアポリン4抗体陽性NMO患者に対し、機能改善に応じた段階的な理学療法を実施し歩行能力改善がみられた為、報告する。
【症例紹介】 60歳代女性。排尿困難の自覚後に発熱と両下肢の脱力が出現。徐々に症状が悪化し、重度対麻痺を認め近医へ入院。急性期治療を経て第65病日に当院回復期病棟へ転院。初期評価では、両下肢不全対麻痺や深部感覚重度鈍麻、四肢のしびれ、神経因性膀胱による尿閉を認めた。視覚障害はなし。筋力MMT体幹屈曲2、体幹伸展2、股関節屈曲3、股関節伸展2、股関節外転2、膝関節伸展3、足関節背屈2レベル。筋緊張は腹部、股関節周囲に低緊張を認め下腿三頭筋、大腿四頭筋は亢進していた。また、深部感覚障害により両下肢運動失調を認めた。平行棒内歩行介助レベルであり立脚期は膝のロッキングがみられ、遊脚期は失調を認め足底の接地位置にもバラつきがあり踵打歩行を呈していた。ADLは起居、移乗動作に介助を要しFIMは55点。Berg Balance Scale(以下、BBS)2点、総合障害度がExpanded Disability Status Scale(以下、EDSS)8.5点であった。
【経過】 介入初期には臥位でのドローイン、ブリッジ運動を行い腹部筋活動の促通や股関節伸展筋の収縮を促し、機能改善に応じて段階的に四つ這い訓練や膝立ち訓練へ移行し運動負荷の調整を行った。運動失調に対してはエルゴメーターを実施した。初期の歩行訓練ではUDフレックスAFOショートタイプを装着し足部の安定化を図り、腹部の低緊張に対しマックスベルトを装着した。排泄に関しては、第123病日に自尿がみられるようになり、姿勢保持や動作遂行中の体幹の安定性向上、下肢の協調性の改善に伴い歩行能力が向上し第174病日に病棟内歩行車歩行自立となった。最終評価(第209病日)では筋力MMT体幹屈曲3、体幹伸展3、股関節屈曲4、股関節外転3、股関節伸展3、膝関節伸展4、足関節背屈4レベルまで改善した。TUGテスト(歩行車)19秒、10m歩行(歩行車)13秒、BBS22点、FIM106点、EDSS6.5点となった。退院時はセーフティーアームウォーカー歩行自立となった。
【考察】 本症例は、重度対麻痺による自立歩行困難と尿閉である事が大きな課題であった。介入初期より腹部の筋活動の促通を行ったことで腹筋群の筋活動の向上により姿勢制御が改善し、排尿障害においても腹圧が高まり排尿機能の改善に関与したと考える。また、重心や支持基底面を調整しながら段階的に四つ這い訓練や膝立ち訓練にて体幹、殿筋群の運動学習を行ったことで姿勢保持や動作遂行中の体幹の安定性向上がみられた。エルゴメーターは立位姿勢制御や歩行時の身体動揺に対し有用とされており、歩行の筋活動に高い類似性が認められている為、歩行にかかわる神経筋活動様式の再学習となり、一定のペースで律動的な下肢の交互運動が可能となったことで協調性障害の改善が得られ歩行の安定化に繋がったと考える。
【まとめ】 今回、重度対麻痺を呈するNMO患者に対して長期にわたり段階的に運動負荷を調整し理学療法を行ったことで機能改善やADL能力向上がみられた。また、再発と寛解を繰り返すとされており退院後も在宅生活の中での支援や地域医療機関との連携など包括的な介入が必要である。
【倫理的配慮】 本発表にあたり、本人に目的や内容、個人情報の取り扱いについて口頭にて説明を行い、同意を得た。