主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 13-
【はじめに】 今回、右被殻出血により重度左片麻痺、高次脳機能障害を呈した症例を担当した。本症例は入院時、30度の足関節底屈拘縮を呈しており、通常の下肢装具では適合できず、立位・歩行練習に難渋した。今回、装具に踵補高を付ける工夫を行い、立位や歩行時の麻痺側下肢への荷重や下腿前傾を促せたことにより、立位・歩行能力の改善を認めたため、その有用性について報告する。
【症例紹介】 50歳代女性、診断名:右被殻出血、障害名:左片麻痺、高次脳機能障害(注意、記憶、左半側空間無視)、失語症、入院前ADL:自立、現病歴:X日、自宅療養中に発症。A病院へ救急搬送され、すでに除脳姿勢を呈していた。頭部CTにて右被殻出血と診断。血腫除去術を施行。X+34日にリハビリテーション目的にて当院入院。
【入院時評価】 JCS:Ⅱ-20、Br-stage:上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅱ、左上下肢の表在感覚:鈍麻、深部感覚:低下、MAS:上肢4、下肢3、ROM:足関節背屈(Rt/Lt)20°/-30°、握力(Rt/Lt):9.9 ㎏/不可、SCP6点、TCT:12点、立位保持:最大介助、移乗:最大介助、歩行:全介助、HDS-R:3点、運動FIM:13点、認知FIM:9点。
【経過】 入院時より麻痺側下肢は内反尖足位で拘縮しており、立位や歩行において麻痺側のつま先しか接地せず、歩行では膝折れが生じていた。踵接地を可能とし、立位や歩行時に麻痺側下肢へ荷重することや下腿前傾と股関節伸展を引き出すことを目的として、X+53日、主治医、義肢装具士とKAFO作成を検討した。膝継手はリングロック、足継手はダブルクレンザック、ハイブリットタイプとした。立位で膝伸展し、下腿後傾を制限した状態で床面から踵までの高さに合わせ、踵に4.5 ㎝の補高を貼付した。1 ㎝ずつ補高の高さが調整できるように、マジックテープで着脱可能にした。また、脚長差を是正するため、左右の上前腸骨棘の高さを評価し、非麻痺側の靴の足底に5 ㎝の補高を行った。週に1回、立位や歩行時の下腿後傾が生じないことを評価した上で補高を除去する方針とした。X+67日装具と靴が完成。足継ぎ手の背屈制限はフリーとし、底屈角度は下腿が床面に対して垂直になるように調整した。装具と靴の使用により、両下肢伸展位での立位が可能となり、立位保持が安定した。また、歩行時もICの踵接地と立脚後期の股関節伸展が可能となり、麻痺側立脚期の膝折れが消失した。加えて、1回の歩行距離が延長し、練習量を徐々に増やすことができた。X+91日、補高を1 ㎝除去した上で、下腿後傾が生じなくなったため、1 ㎝除去した。脚長差を調整するため、非麻痺側の靴の補高を1 ㎝除去した。入院後3か月評価(X+120日)JCS:Ⅰ-2、Br-stage:上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅱ、ROM:足関節背屈(Rt/Lt)20°/-20°、握力(Rt/Lt):18 ㎏/不可、SCP0点、TCT:74点、立位保持:手すり使用し見守り、移乗:手すり使用し見守り、歩行:補高を評価したが、下腿後傾が生じたため、調整しなかった。AFOとQ-caneを使用し片手での腋窩介助、運動FIM:35点、認知FIM:12点。
【考察】 今回、被殻出血後、重度左片麻痺、底屈拘縮を呈した症例に対して、装具に踵補高の工夫を行ったことで、即時的には立位で床面に対し下肢や体幹を垂直に保てるようになり、立位保持の安定性が向上した。また、踵接地や下腿前傾、股関節伸展が促され、歩行率の改善、歩行練習量の増加が図れた。長期的には歩行能力だけでなく、足関節ROMの改善も図れた。踵補高の使用により、立脚後期で下腿前傾することで、下腿三頭筋が伸張され、足関節ROMの改善につながったと考える。姿勢アライメントの修正や歩行量増加により立位や歩行能力の改善につながったことから、足関節底屈拘縮に対する踵補高を貼付した装具の工夫は有用であったと考える。
【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者に研究内容を十分に説明し承認を得た後に実施した。