主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 12-
【目的】 従来の研究では、インソールの装着は一般的に重心動揺の減少に有効であるとされている。これはインソールが個々の足底部の形状を補正し、足部の安定性を改善し、重心移動の制御を容易にするためである。ただし、インソールが適切でない場合、重心動揺が増加する可能性があることも報告されている。
そのような問題を解決するため、熱形成によって作製するインソールが開発された。このインソールは、足構造に合わせて熱を加え、形状を変化させることができるため、個人に合わせた調整が容易に行える。しかし、このようなインソールが重心動揺に与える影響に関しては、まだ研究が限られている。
本研究では、健常者を対象に個々の足底部の形状に合わせて作製した熱形成インソールと、既製のインソールを装着した場合の片脚立位および足踏み動作における重心動揺量を比較する。本研究の目的は、熱形成インソールが重心動揺に及ぼす影響について、より詳細かつ客観的な知見を提供することである。
【対象】 熱形成インソールの作製を希望した健常成人女性6名(平均年齢:20.8±0.4歳、平均身長:162.3±6.7 ㎝、平均体重:57.9±4.9 ㎏、BMI:22.1±2.5 ㎏/m2、足長:24.2±0.6 ㎝)。選択基準は、6か月以内の整形外科的疾患の既往の無い者とした。
【方法】 総合重心動揺解析システム(バランスコーダ、BW-6000、アニマ株式会社)を用い、2種類のインソールで片脚立位と足踏み動作の2つの課題を行った。熱形成インソールは対象者の足部に合わせて機械で熱形成したもの、既製のインソールは靴に元々入っているものを使用した。測定回数と時間は、片脚立位は左右3回ずつ30秒間測定し、足踏み動作は3回30秒間測定した。両課題は全て開眼にて行い、視線は目線の高さに合わせた2 m前方の壁面につけたマーカーを注視するように指示した。1回測定ごとに1分間休憩させた。測定順序はランダムとした。測定項目は、総軌跡長、単位軌跡長、外周面積、左右実効値を採用した。
【統計解析】 熱形成と既製のインソールの重心動揺の違いを比較した。正規性の検定はShapiro-Wilk検定を用い、正規性の有無に従い対応のある差の検定(対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付順位検定)を実施した。統計解析には、改変Rコマンダー(Ver 4.2.1)を使用し、有意水準は5%とした。
【倫理的配慮】 厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従い、全ての対象者に本研究内容・方法を事前に説明し、研究協力への同意を書面により得た。
【結果】 片脚立位では、総軌跡長、単位軌跡長、外周面積、左右実効値において2種類のインソールで有意差は認められなかった。足踏み動作では、総軌跡長、単位軌跡長、外周面積に有意差は認められなかったが、左右実効値においては既製インソールが8.24±0.73 ㎝、熱形成インソールが7.84±0.84 ㎝と有意に減少した(p<0.05、効果量r=0.84大)。
【考察・まとめ】 本研究の結果から、熱形成インソールの装着により、足踏み動作の左右動揺を減少する事が示された。足踏み動作は片脚立位と比べ左右への重心移動を伴う動きである。熱形成インソールで個人の足構造に合わせた補正が接地時の左右動揺を減少させたと考える。先行研究においても、重心移動を伴う片脚スクワットや足踏み動作で重心動揺の改善がみられた。従って、熱形成インソールは、足部の変形がある患者の歩行時の動揺制御に有効かもしれない。今後は、熱形成インソールが重心動揺に与える縦断的な効果や下肢疾患を呈する患者を対象に検証していきたい。