九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題26[ 骨関節・脊髄⑥ ]
硬膜外腫瘍から対麻痺を呈した多発性骨髄腫患者の自宅退院に向けての取り組み
O-149 骨関節・脊髄⑥
宮平 亮治泉 清徳矢木 健太郎
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p. 149-

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抄録

【目的】 がんのリハビリテーションガイドラインでは化学療法、放射線療法中・後の血液腫瘍患者に運動療法を実施することは強く勧められている。しかし悪性腫瘍の脊椎転移に伴う脊髄損傷患者は在宅で介助量の多い生活をされている症例を経験することが少なくない。今回予後1年半と診断された硬膜外腫瘍から対麻痺を呈する多発性骨髄腫患者を担当し、本人と妻の思いを踏まえ自宅退院を目指した取り組みを報告する。

【症例紹介】 診断名:多発性骨髄腫。60代男性。入院前ADL自立で妻と2人暮らし。

【経過】 入院日5日前より対麻痺症状出現、画像上頚・胸椎、肋骨骨髄腫病変、特にC7からTh7に硬膜外腫瘍を認め上記診断で入院。2病日目Th2・3へ放射線療法(以下、RT)開始。同日理学療法開始。初期時理学療法では改良Frankel分類C-1、Th7領域以下の表在覚中等度鈍麻、下肢深部覚重度鈍麻。14病日目Th7へRT追加後、主治医より本人と家族へ運動麻痺回復は不透明で、生命予後は1年半であると説明。Th2. 3. 7への放射線療法が終了するも運動麻痺の改善みられず起立・移乗動作最大介助レベル。52病日目にVRD療法(以下、VRD)が開始され、本人から車いすでいいから家に帰りたい。妻から軽介助であれば自宅で看てあげたいという希望が聴かれた。そこで目標として自宅退院を目指し起立・移乗動作軽介助から見守りレベルと設定。目標達成のための問題点として下肢筋力低下と深部感覚鈍麻が主にあり、それらに向けてのアプローチを行いつつ、家屋環境調整・介護サービス調整・本人と妻への動作指導を実施。150病日目VRD3クール終了し改良Frankel分類D-1、Th7以下の表在覚軽度鈍麻、下肢深部覚軽度鈍麻、車いす自走自立、起立・移乗動作修正自立となり151病日目に自宅退院。

【考察】 今回生命予後1年半と限られた予後のなか本人と妻の思いを踏まえ自宅退院を目指すにあたり、起立・移乗動作軽介助から見守りレベルと自宅で妻の負担にならない介助量の目標設定を行った。上記の目標達成に向け下肢筋力増強練習、動作反復を中心に行っていたが、移乗介助量増大になっていた要因として、深部感覚鈍麻から下肢振り出し後の足部接地位置が一定しないことが挙げられた。そこで鏡を使用し視覚フィードバックを用いたステップ練習や床にマーキングを施した移乗練習を実施。また家屋環境調整として自宅内に手すりの設置と車いす自走のため段差解消を行い、退院後の介護サービスでは介護ベッドと車いすのレンタル、訪問リハビリテーションの介入を依頼。また本人と妻へ起立と移乗の介助動作指導と病的骨折予防に向けた動作指導を実施。徐々に下肢筋力と表在・深部感覚の回復がみられるに伴い起立・移乗動作の介助量軽減につながり、本人と妻の希望する自宅退院に至った。

 今回多発性骨髄腫の脊椎病変による不全麻痺の運動麻痺回復程度は不透明であった。そのなかで理学療法介入を行い、起立・移乗動作介助量軽減を達成でき、また妻の協力と家屋改修、介護サービス利用にて自宅退院につながったと考えられる。

【倫理的配慮、説明と同意】 本報告は対象者に説明を行い同意を得た後に実施し、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に則り、個人情報データの匿名処理を行い、個人情報保護に十分に配慮し行った。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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