主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 150-
【目的】 近年、中心性頚髄損傷患者において早期からの歩行練習の重要性が示唆されている。しかし、これまで中心性頚髄損傷患者の歩行再建に向けた理学療法は多大な人的資源を必要とする方略が行われてきた。そこで、近年では体重免荷式トレッドミルを使用する事で、より人的資源を必要とせず且つ安全に歩行練習を行えるといった有効性の報告も散見されている。今回、体重免荷式歩行器(Hill ROM社製 Liko Lift:以下、リフト)を導入したプログラムにより、受傷後早期から歩行練習に取り組めADLの改善を認めた症例を担当する機会を得たため報告する。
【症例紹介】 70代男性(身長169 ㎝、体重73.5 ㎏、BMI:25.7)、仕事中に転倒しブロック塀で前額部を打撲し受傷(X日)、四肢麻痺を認め救急要請。中心性頚髄損傷の診断に対し保存加療にて治療を進めていく事となった。入院前のADLは独歩レベルであり、IADLを含め全て自立していた。介入時当初の所見は、頚部から両肩関節にかけての疼痛とC5領域以下の重度感覚鈍麻、MMT(右/左)にて肘屈筋群4/3、肘伸筋群4/3指関節屈筋群3/1、指外転筋群3/1股屈筋群4/3、膝伸筋群4/3、足背屈筋群3/3長母指伸筋群3/3、足底屈筋群3/3といった筋力低下が認められた。Frankel分類(右/左):D1/D1、Zancolli分類(右/左):T1B/C6A、ASIAは運動項目の上肢総点27点、下肢総点48点、表在触覚93点、痛覚97点となっていた。起居・移乗動作に関しては体幹支持に介助を必要とする状態だった。
【経過】 リハビリは入院翌日(X+1日)から介入しており、X+2日から車椅子移乗練習を開始し歩行練習はX+3日から開始した。当初は5mの歩行器歩行が可能だったが、膝折れが頻繁に生じ転倒リスクが高く実用性は乏しいものだった。そこで、X+4日からリフトを使用したプログラムを開始し、X+6日には歩行距離が140mまで延長できた。X+8日には膝折れが消失しリフトを使用せず歩行器のみで100mの歩行が監視下にて可能となり、移乗動作も監視で行えるようになった。X+11日頃から回復期病棟への転棟も検討されていたが、300m以上の独歩と12段以上の階段昇降能力を獲得し経過良好となり、X+44日で急性期病棟から自宅退院となった。リフトを使用したのはX+4日からX+7日までの4日間であり、リフトを使用したプログラムの介入単位数は合計12単位であった。
【考察】 中心性頚髄損傷は、頚髄中心部を損傷する疾患であり、頚髄水平断において上肢の機能を司る伝導路が下肢のものと比較し中心部に位置することから、上肢の麻痺が重篤になり易い傾向にあるが、下肢筋の廃用性筋萎縮等から歩行困難となる例も少なくない。そのため、受傷後早期から離床を図り廃用予防に努める必要があると考えられている。本症例は、当初、セラピストの介助が加わった状態でも歩行の耐久性は5mと非常に短く、膝折れも生じるなど転倒リスクも高く実用性に欠けるものだったが、リフトの使用により介助量の軽減が図れ、安全な歩行練習を受傷後早期から開始できた。更に、リフトの使用により負荷量の調節が定量的に行えたことで、常に一定の質を保ったリハビリを提供できたことも考えられる。その結果、頻回な離床と歩行練習が実施できた事で歩行再建と早期退院に至ったと考察する。今後は歩行時の免荷量を数値化し、負荷量の指標として活用していくことが課題となる。
【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき、症例に対して検査前に今回の研究の意義、説明と同意を得た。