九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題26[ 骨関節・脊髄⑥ ]
慢性期頚・脊髄損傷患者に対する脂肪組織由来再生幹細胞群(ADRCs)点滴静注治療とリハビリテーションの経過報告
O-151 骨関節・脊髄⑥
細木 悠孝古川 繁吉川 厚重古閑 博明
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p. 151-

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抄録

【はじめに】 再生医療における急性期および慢性期頚・脊髄損傷患者についての報告は散見される。また、慢性期頚髄損傷患者に対して、脂肪組織由来再生幹細胞群(以下、ADRCs)点滴静注治療を用いた症例報告はある。しかし、慢性期頚・脊髄損傷に対してADRCs点滴静注治療を用いた、長期的な治療報告について一定数の症例をまとめた報告は管見の限りない。今回、慢性期頚・脊髄損傷に対して、ADRCs点滴静注治療の手術1週間前(以下、術前)、手術1週間後(以下、術後)、術後1ヵ月、術後1年のリハビリテーション評価の経過について報告する。

【対象】 2019年7月~2021年3月までに入院され、ADRCs点滴静注治療を受けた頚・脊髄損傷患者30名のうち、術前、術後、術後1ヵ月、術後1年の評価が実施できた男性13名(平均年齢57.6歳±11.9歳)を対象とした。発症からの経過は平均37.5ヶ月であった。損傷部位は頚髄損傷8名、胸腰髄損傷5名で、ASIA機能障害尺度(以下、AIS)はA:5名、B~D:8名であった。

【方法】 腹部より脂肪組織を採取し、セルーションⅣ(cytori社製)にてADRCs溶液5 ㎖を抽出したものを、乳酸リンゲル液250 ㎖に混合し採取当日に静脈より点滴投与した。その後、約1ヶ月間のリハビリテーションを施行した。

 評価項目は、ASIA運動・知覚score、機能的自立度評価法運動項目(以下、m-FIM)についてAIS:AとB~Dに分け、それぞれの評価項目について、術前、術後、術後1ヵ月、術後1年で比較した。評価者は評価方法のレクチャーを受けた者で、術前から術後1年まで同一者が実施した。

【倫理的配慮】 本研究は熊本リハビリテーション病院倫理委員会(173-210816)の承認を受け、対象者には書面で研究の趣旨を十分に説明し同意を得た上で実施した。また、厚生労働省へ再生医療等の安全性の確保等に関する法律第4条第1項の規定により再生医療等提供計画を提出している。

【結果】 AIS:A5名の中央値(術前、術後、術後1ヵ月、術後1年)は、ASIA運動〈上肢(50, 50, 50, 50)、下肢(2, 2, 2, 4)〉、ASIA知覚〈表在触覚(76, 76, 76, 79)、ピン痛覚(75, 77, 76, 76)〉、m-FIM(73, 72, 72, 76)であった。AIS:B~D8名の中央値は、ASIA運動〈上肢(36, 39.5, 40, 41.5)、下肢(32.5, 39, 39.5, 41)〉、ASIA知覚〈表在触覚(59, 59, 61.5, 67.5)、ピン痛覚(65, 61.5, 61.5, 79.5)〉、m-FIM(63, 63.5, 63.5, 69)であった。また、AISの変化は2症例認めており、2症例とも不全損傷でCからDへ改善した。その他は変化なしであった。

【結語】 慢性期頚・脊髄損傷に対するADRCs点滴静注治療は、一定数の症例の結果、ASIA運動・知覚score、m-FIMの長期経過において、数値の上昇を示した。さらに、不全損傷は完全損傷に比べて数値の上昇を示した。今回の結果から、短期的なリハビリだけでなく、術後1ヵ月以降にも継続できるリハ内容の指導の必要性を強く感じた。

【今後の課題】 症例のサンプル数が少ないため、データの蓄積及びサンプル数を増やしていく。また、評価項目が限定的であったことや、術後1ヵ月以降のリハビリ内容や生活状況の調査が不十分であったため、評価内容の検討及び再構築を行っていく。

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