主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 16-
【目的】 歩行における推進力にはTrailing Limb Angle(以下、TLA)が必要とされる。今回、大腿切断後の義足歩行獲得に向け、三次元動作解析装置を用い運動学・運動力学的評価を行った結果、TLAの低下を認めた。TLAの改善目的に股関節機能改善と動的立位能力向上の理学療法を実施した結果、歩行能力が向上したため、義足歩行患者におけるTLAの改善と歩行能力について検討することを目的とする。
【対象】 60歳代男性、交通事故による左大腿切断。術後27日目に当院回復期リハビリテーション病棟に入院。術後63日目に大腿義足作成(ソケット:吸着式、膝継手:3R106多軸空圧膝継手、足部:1C30トライアス)。受傷前ADLは独歩にて自立。特記すべき既往歴や併存疾患なし。
【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に順守し、対象者に口頭にて研究の趣旨を説明し同意を得ており、当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:22-271)。
【経過】 術後81日目より義足での立位保持練習や歩行練習を開始した。術後128日目杖歩行見守り。運動学・運動力学的評価は三次元動作解析装置(VICON社製VICONMX・床反力AMTI社製6枚)を用い計測した。歩行速度:0.570m/秒、歩幅:0.493m。義足側、床反力:前方成分最大値0.028N/㎏、関節モーメント(以下、関節M)、足関節底屈M:最大値0.60Nm/㎏、荷重応答期(以下、LR)の股関節外転M:最大値0.065Nm/㎏、伸展:最大値0.223Nm/㎏、体幹側屈角度:義足側へ4.6度、TLA:3.6度。身体機能評価、左股関節ROM:屈曲105度、伸展10度、外転35度、内転10度、徒手筋力テスト(以下、MMT):股関節屈曲4、伸展・外転3。歩容:立脚期に体幹が義足側へ側屈。
理学療法は、股関節の機能向上と下肢の支持性・動的可動性の向上を目的に、①体幹正中位閉脚位保持し視覚的フィードバックと固有感覚を用いた左右荷重練習、②義足側下肢を前方にしたstep肢位での同側上肢を挙上による荷重練習を行った。術後137日目屋内杖歩行自立、術後156日目屋外杖歩行自立。歩行速度:0.679m/秒、歩幅:0.519m、床反力:前方成分最大値0.043N/㎏、関節M、足関節底屈M:最大値0.073Nm/㎏、LRの股関節外転M:最大値0.105Nm/㎏、伸展M:0.209Nm/㎏、体幹側屈角度:義足側へ1.8度、TLA:7.94度。左股関節ROM:股関節屈曲115度、伸展10度、外転40度、内転15度、MMT:股関節屈曲5、伸展・外転4。歩容:立脚期の義足側への側屈はみられるも減少。
【考察】 歩行における下肢の推進力にはTLAと足関節底屈筋群の活動性が必要である。しかし、義足歩行では足関節底屈筋群による推進力は得られないため、TLAが改善することが求められる。股関節の伸展運動が立脚後期に出現するためには、臼蓋と大腿骨骨頭の適合性を得る必要がある。今回、運動学・運動力学的評価の結果よりLRの股関節外転Mの低下が明らかとなった。股関節外転Mの低下は股関節伸展運動を阻害する一要因と考え、股関節外転筋の筋活動を促し股関節の安定化を図り、次にLRを意識した股関節伸展運動を誘発する理学療法を実施した。結果、歩行における運動力学的因子の値は向上し、筋力の増大を認めた。さらに、股関節外転Mは増大したものの、股関節伸展Mには変化を認めなかったことから、股関節外転M向上に着目した理学療法は、股関節の安定化とそれに伴う股関節伸展運動の運動学習を可能にしたことが歩行能力向上に有効であったと推察する。結果、立脚期の股関節伸展を拡大させ、TLAが増大したことで、義足歩行においても足関節Mの増大を可能にした。それに伴い床反力前方成分が増大し歩行速度は向上し、杖歩行自立獲得に至ったと考える。