主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 173-
【目的】 Timed up and go test(TUG)は動的バランス能力の評価指標であり、信頼性が高く、下肢筋力、バランス、歩行能力、易転倒性といった日常生活機能との関連性が高い。高齢者の身体機能評価や転倒の予測因子として広く用いられている。Shumway-Cook(Phys Ther. 2000)らは、地域在住高齢者の転倒経験者と非経験者のTUGのcut off値を13.5秒と報告している。これらのcut-off値は調査対象者によって変化し、運動器不安定症では11秒とされている。しかしながら、TUGの値が地域在住高齢者の日中活動パターンに及ぼす影響についてはよく分かっていない。そこで、本研究は、運動器疾患を有する地域在住高齢者を対象にしてTUGと日中活動パターンの関係について検討した。
【方法】 対象は、運動器疾患を有する地域在住高齢者103名の内、過去1年以内の急性疼痛、認知症、神経疾患、心血管疾患、重度の併存疾患の既往をもつ者、データに欠損がある者30名を除外した73名(男性:16名女性:57名、81.2±13.2歳)とした。調査項目は、過去1年間の転倒経験、TUG、日中活動量の計測を行った。活動量の計測には3次元加速度センサ(OMRON社製、Active style pro HJA-750C)を用い、対象者には1週間装着するよう指示し、8時間/日以上装着したデータを解析に用いた。活動量の解析指標として歩数、生活EX、歩行EXに着目した。EXとは身体活動の強さと量を表す単位で、身体運動強度(METs)と活動時間の積で表される。今回AM6:00~PM23:00における3METs以上6METs未満のEXを分析した。最初に転倒経験者と非経験者において、TUGの値に違いがあるか検討した。次に、今回の対象者全員の平均値が12.9秒であったので、TUGのカットオフ値を13秒に設定し、TUG13秒未満群と13秒以上群の2群に分けて比較検討した。統計学的検定にはGraphPad Prismを用い、群間比較は対応のないt検定あるいはMann-Whitney検定、グループ解析はFisherの正確確率検定、日中活動パターンの比較は二元配置分散分析、TUGと活動量の関係はピアソン相関係数を用いて検討し、有意水準は5%とした。
【結果】 TUGの値は、転倒経験者(16.1秒)が非経験者(11.3秒)と比較して有意に高かった(p<0.01)。1日の歩数において、TUG13秒以上群(1,409歩)は13秒未満群(3,264歩)と比較して有意に減少していた(p<0.01)。同様に、TUG13秒以上群は13秒未満群と比べて生活EX(11.2と18.6)、歩行EX(1.3と3.0)ともに有意に減少していた(p<0.05)。1日の時間別平均歩数は12時を境に午前10時と午後2時にピークを迎える2峰性の変化を示し、TUG13秒以上群は午前と午後の歩数が減少していた。歩行EXと生活EXも同様の日内変化を示し、13秒以上群で大きく減少していた。TUG値の増加は歩数や生活EXと有意な負の相関関係を認めた(r=-0.539とr=-0.530、p<0.05)。
【考察】 運動器疾患を有する地域在住高齢者は歩行活動と比較して生活活動は比較的維持されていることが報告されている(Sakakima et al., Int J Environ Res Public Health. 2020)。本研究は、TUG値が大きいと転倒リスクが高まると同時に日中の活動パターンに影響を及ぼし、特に日中の歩行活動だけでなく生活活動も減少していることを示唆した。
【まとめ】 運動器疾患を有する地域在住高齢者において、TUGの値は日中活動パターンと関係しており、在宅での活動性の評価指標として有益である。
【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は鹿児島大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(No180050)。ヘルシンキ宣言に基づいて実施した。対象者には十分説明を行い、同意を得た。