九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題4[ 成人中枢神経④ ]
回復期病棟における重症脳血管疾患患者の歩行自立度に関する要因の検討 ―BBS に着目して―
O-021 成人中枢神経④
元村 亮太城谷 茉奈安藤 浩樹久米 康隆
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p. 21-

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抄録

【はじめに】 回復期リハビリテーションは既知の通り重症症例のADL向上が求められている。回復期病棟における重症症例の中には脳血管疾患が多数いるが、入退棟時FIMの点数が改善された症例であっても歩行自立が困難な症例も少なくない。

 先行研究では、BBS評価は姿勢制御の中で歩行に関与する生理的要因を反映しており、脳血管疾患における歩行獲得の予後の評価として有益であることが分かっている。しかし、重症脳血管疾患の歩行能力の改善におけるBBS評価の有用性を示した報告はほとんど見られない。

 本研究では、重症脳血管疾患患者を対象に歩行能力の自立に関与する要因についてBBSを基に抽出し、理学療法の一助となることを目的とした。

【対象および方法】 対象は当院回復期病棟に2022年1月1日から2023年1月1日までに入棟した脳血管疾患とした。辻らの報告では、重症脳血管疾患の定義を回復期入棟時のFIM運動項目総得点が50点未満のものとしており本研究でも同様に分類した。その中から退棟時FIM50点以上に改善したものを抽出し、評価項目が不足していた例(11名)を除外し合計24名を対象に実施した。

 情報収集は後方視的に診療録等から基本情報とFIMとBBSを収集し、退棟時FIMの歩行が7・6点のものを歩行自立群、5点以下のものを歩行介助群とし検討を行った。

 統計処理は歩行の自立群と介助群の退棟時のBBSの2群間に対し比較検討を実施した。基本情報の正規性を示したデータにはF検定を行い、等分散の場合はStudentのt検定、非等分散の場合はWelchのt検定を用いた。非正規性を示したデータにはMann-WhitneyのU検定を実施した。BBSに対してはSpearmanの順位相関係数とMann-WhitneyのU検定を用いて検討を行った。全ての有意水準は5%未満とした。

【結果】 基本情報は年齢に有意差を認めた(p<0.01)。

 退棟時FIM運動小計と退棟時BBS総得点では正の相関(rs=0.49 p<0.05)を認め、退棟時FIM歩行と退棟時BBS総得点でも正の相関(rs=0.6 p<0.01)を認めた。

 歩行自立群と歩行介助群の退棟時BBSの得点を中央値で算出した。BBSの着座、移乗、上肢前方到達、床から物を拾う、360°回転、片脚前方立位、片脚立位の項目で有意差を認めた(p<0.05)。

 またBBS総得点においても有意差を認めた(p<0.05)。

【考察】 基本情報の歩行自立群と歩行介助群の2群間比較では年齢に有意差を認めた。高齢に伴う身体機能の低下、認知機能の低下等により歩行自立度に影響が生じたと考えられ、本研究の今後の課題である。

 BBSを用いた歩行自立群と歩行介助群の2群間比較では着座、移乗、上肢前方到達、床から物を拾う、360°回転、片脚前方立位、片脚立位の項目とBBS総得点で有意差を認めた。各項目を「支持基底面の保持」「支持基底面の変化を伴わない重心移動」「支持基底面の変化を伴う重心移動」に分類し、「支持基底面の保持」の項目では有意差がみられず「支持基底面の変化を伴わない重心移動」と「支持基底面の変化を伴う重心移動」では難易度の高い動的バランスの項目で有意差を認めた。歩行の立脚中期では身体重心を最大限高める必要があり、対側は遊脚初期から遊脚中期に相応するため、支持基底面の変化を伴いながらも安定した単脚支持が重要であり難易度の高い項目で有意差を認めたと考える。

 BBS総得点においても、先行研究の脳血管疾患の歩行とBBSとの関連性の結果と、本研究も同様の結果となった。

【結語】 重症脳血管疾患患者の歩行自立度の評価としてBBSは有用であることが示唆された。

【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき対象者における個人情報保護などに十分配慮した。

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