主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 32-
【はじめに・目的】 現在、我が国は高齢化が進み、超高齢化社会に突入している。このような状況の中、骨粗鬆症に起因した脊椎圧迫骨折患者は今後更なる増加が予測されている。高齢者の多くは旧家屋で生活しており、在宅復帰する際に段差が障壁となる場合がある。また、段差昇降能力は外出能力に関係しており、理学療法において着目すべき観点である。脊椎圧迫骨折患者は、受傷後に強い疼痛や活動制限を伴うため、立位バランスや歩行の初期評価は実施できないことが多く、予後予測に難渋することが考えられる。そこで本研究では、脊椎圧迫骨折患者を対象に、臥位やベッド上長座位でも測定できる初期評価から、退院時の階段昇降動作の自立に影響を及ぼす要因を検討することを目的とした。
【方法】 本研究では、医療法人かぶとやま会久留米リハビリテーション病院に入院し、回復期病棟を経て退院した女性の脊椎圧迫骨折患者173名を対象に調査を行った。対象期間は2017年10月から2022年3月までである。調査期間に死亡した患者や調査項目が欠損する患者は除外した。調査項目は、年齢、入院時のHDS-R, SMI, BMI、握力に加え、脳卒中の既往の有無、椎体骨折数、受傷回数をカルテから後方視的に調査した。階段昇降自立の可否はFIM階段項目の6点以上を自立群、5点以下を要介助群の2群に分類した。次に、階段昇降自立の可否を従属変数としたロジスティック回帰分析を行い、階段昇降能力に関係する因子を抽出した。多重共線性を確認するためにVIFを算出し、各測定項目間の関係を確認した。さらに、ROC曲線を求め、曲線下面積にて適合性を判定し、2群を判別するカットオフ値を検討した。統計解析にはSPSS statistics ver. 28.0(IBM)を用い、有意水準は5%とした。
【結果】 退院時の階段昇降能力の内訳は、階段昇降自立群が95名(81.6±8.2歳)、階段昇降要介助群は78名(86.2±6.1歳)であった。退院時の階段昇降自立の可否別に各測定項目を比較した結果、年齢、入院時HDS-R、入院時SMI、入院時握力に有意差を認めた。階段昇降自立群と要介助群に関連する各項目をロジスティック回帰分析で検討した結果、入院時HDS-R(OR:1.06, 95%CI:1.03~1.16)と入院時握力(OR:1.11, 95%CI:1.01~1.23)が選択された。Hosmer-Lemeshow検定の結果はp=0.24であり、判別的中率は68.9%であった。退院時の階段昇降自立のカットオフ値は、HDS-Rが19.5点(AUC=0.75)、握力は13.9 ㎏(AUC=0.72)であった。
【考察】 本研究は、脊椎圧迫骨折患者の退院時の階段昇降能力に影響する要因を調査した。結果、入院時HDS-Rと入院時握力が選択された。先行研究においても、認知機能が低下すると階段昇降動作に影響することが報告されており、本研究の結果はこれを支持するものであった。また、握力は高齢者の総合的な筋力を反映しており、膝伸展筋力や立位バランスと関連することが報告されている。すなわち、脊椎圧迫骨折患者の入院時の握力が階段昇降の能力に影響している本研究の結果は妥当である。本研究の結果から、脊椎圧迫骨折患者が入院時にHDS-Rと握力が高値であると、退院時には階段昇降が自立する可能性が高いことが示唆された。
【倫理的配慮】 本研究は、医療機関情報および患者の個人情報を匿名加工することによって、患者が特定されないように配慮した。また、本研究は当院倫理審査委員会の承認(No:22-003)を受けている。