九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題8[ 骨関節・脊髄② ]
片側人工膝関節全置換術後患者の股関節周囲筋と体幹筋群への理学療法介入による膝関節可動域と歩容変化
O-044 骨関節・脊髄②
牛島 武今屋 将美東 利雄高井 浩和
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p. 44-

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抄録

【目的】 人工膝関節全置換術後(TKA)の理学療法として、Doらは股関節周囲筋や、Sanoらは体幹筋群への介入により関節可動域(ROM)と歩行能力の改善を報告している。これらの報告を基に股関節周囲筋と体幹筋群に自重運動を段階的に実施しROMと歩容の改善が得られた症例を経験したので報告する。今回の症例報告は、患者に症例報告の主旨・目的を説明し同意を得た。

【症例紹介】 60歳代女性(身長154.2 ㎝、75.0 ㎏、BMI 31.3)で、10年以上前から膝痛があり左TKA(PS)を施行した。膝関節の状態は、KL分類左右ともにstageⅣ、術前左膝他動ROM75°~-15°、FTA右185°、左術前184°、術後176°であった。術後34日にT字杖歩行で自宅退院となったが、膝ROM不良、歩行不安定感の残存あり、術後43日から外来理学療法(OPT)を週1回開始した。評価時、後弯-前弯姿勢を認め、左膝他動ROM80°~-10°、MMT(右/左)膝関節伸展5/4、屈曲4/3、股関節屈曲4/4、伸展4/4、外転4/4、内転4/4、腹直筋2、腹斜筋2であった。歩容では、quadriceps-avoidance gait(QA gait)、体幹傾斜が観察された。OPTとして、術側ROMと股関節周囲筋と体幹筋群の機能低下に対し、股関節と体幹の協調性を意識した自重運動(①背臥位股関節屈伸運動、開排運動)を開始し、段階的に ②腹筋運動と体幹回旋運動、③ステップ動作、④側方リーチ運動を追加し各10回介入した。介入5回目、10回目にデジタルカメラで歩行を撮影し歩行中の膝ROM角度と体幹前傾角、体幹傾斜角、重複歩距離をImageJにより計測した。

【経過】 5回目介入前(術後83日)の評価では、左膝他動ROM 85°~-5°、歩行周期の初期接地期(IC)体幹前傾角右10°、左6°、立脚中期(MS)膝関節屈曲角右17°、左18°、右左MS体幹左傾斜角3°、遊脚期(Isw)膝関節屈曲角右54°、左51°、重複歩距離右837 ㎜、左890 ㎜であった。介入後(①②)の左膝他動ROM 105°~-5°。歩容は、IC体幹前傾角右7°、左4°、右左MS膝関節屈曲角15°、右左MS体幹左傾斜角2°、Isw膝関節屈曲角右60°、左55°、重複歩距離右1,108 ㎜、左1,043 ㎜となった。10回目、最終介入時(術後104日、①~④)は中間位姿勢様が観察され、左膝他動ROM 105°~0°。MMT(右/左)膝関節伸展5/4、屈曲4/4、股関節屈曲4/4、伸展4/4、外転4/4、内転4/4、腹直筋3、腹斜筋3であった。歩容は、ICの体幹前傾角右8°、左2°、右左MS膝関節屈曲角14°、右左MS体幹左傾斜角1°、Isw膝関節屈曲角右59°、左60°、重複歩距離右1,196 ㎜、左1,150 ㎜となった。

【考察】 Satoらは体幹制御向上に伴うROMと歩行能力の改善を報告しており、本症例も体幹制御機能向上に伴う下肢筋緊張が変化し関節周囲軟部組織の滑走性が向上したことにより膝他動ROMが改善したと考える。また、股関節体幹制御機能向上に伴い下行性運動連鎖と協調性が高まり、QA gait、体幹傾斜角と膝関節屈曲角が改善したと考えられる。さらに、遊脚期の膝関節運動範囲は歩行速度と重複歩距離に影響することから、その結果として重複歩距離が増加した。最終介入時の歩行能力向上は、側方リーチ動作で内腹斜筋による仙腸関節の安定性の向上、ステップ動作による内転筋と股関節外転筋の共同活動による骨盤傾斜制御機能向上が影響したと思われる。また、股関節骨盤体幹制御向上により右MSの下肢支持機能が向上し、体幹前方移動が促され、左Isw時の膝関節制御に影響を及ぼし膝関節屈曲角が改善したと考えられた。自重運動による股関節周囲筋と体幹筋群への理学療法介入は、歩容(QA gait、右左IC体幹前傾角、MS体幹傾斜角、Isw膝関節屈曲角)と重複歩距離、術側ROM改善を促す一助となりえる。

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