九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題8[ 骨関節・脊髄② ]
当院における人工膝関節全置換術後の退院遅延症例の術後成績
O-045 骨関節・脊髄②
菊池 光祐
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キーワード: TKA, 在院日数, 術後成績
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p. 45-

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抄録

【はじめに】 人工膝関節全置換術(Total knee arthroplasty:以下、TKA)は特に変形性膝関節症に対して選択され、当院においても多く施行されている。当院におけるTKA術後の入院計画は3~4週であるが、在院日数が長期化する症例がしばしば見受けられる。そこで今回、退院遅延症例の術後成績を検討し調査することで、術後の理学療法介入や退院時の指導に活かせると考えた。

【方法】 対象は2021年1月1日~同年12月31日の期間に変形性膝関節症によりTKAを施行し、追跡可能であった75例(年齢74.2±6.50歳)とした。関節リウマチ、中枢性疾患、入院中に特定の原因で理学療法の介入が出来なかった期間のある症例は除外した。全症例の在院日数の中央値である30日を基準とし、30日未満で退院可能であった群36例(以下、早期群)と30日以上であった群39例(以下、遅延群)の2群に分けた。調査項目は手術時の年齢・BMI・同居者の有無と歩行レベル、変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下、JKOM)、日本整形外科学会膝痛疾患治療成績判定基準(以下、JOA)、疼痛(Visual Analog Scale:以下、VAS)、膝関節可動域(以下、ROM)の各項目を術前・退院時・術後1年でそれぞれ比較した。なお、退院時のJKOMについて在院中には回答が不可能な「ふだんの活動など」の全項目と「日常生活の状態」の買い物・簡単な家事・負担のかかる家事の3項目を除いた17項目にて評価を行った。統計処理はStudentのT検定、Mann-WhitneyのU検定を用い、群間の比較を行った。有意水準はすべて5%(P<0.05)未満とした。

【倫理的配慮】 本研究は、当院倫理委員会の承認を得て実施した。

【結果】 術前ではVAS(P=0.020)とJKOMの「普段の生活など」(P=0.019)で有意差を認め、その他の調査項目では有意差は認めなかった。退院時ではJKOMの除外項目以外の合計点(P=0.046)、「日常生活の状態」の合計点(除外項目を除く)(P=0.007)、「健康状態について」の合計点(P=0.048)で有意差を認め、その他の調査項目では有意差は認めなかった。術後1年では、すべての調査項目において有意差は認めなかった。

【まとめ】 今回、在院日数の違いでは術後1年の成績に影響はみられなかった。有意差のみられた項目は術前のVASとJKOM「普段の生活など」と退院時のJKOM「日常生活の状態」、「健康状態」であった。藤本らは、膝OA患者のADLに大きく関連する基本動作として「椅子からの立ち上がり」「歩行」「段差昇降」の3つを挙げている。「日常生活の状態」の項目では階段昇降や立ち上がりに関しての質問項目があり、これらの動作は入院中の生活と比較して動作遂行の難易度は高く、動作時の困難感が生じやすいと考える。遅延群では日常生活動作の困難感や健康状態の低下が退院遅延につながったと推察する。そのため術後理学療法介入において、個々の生活状況に応じた日常生活動作を獲得し、反復的に練習することで退院後の生活に対する不安を解消していく必要があると考える。また術前において疼痛が強い症例や、普段の生活を制限している症例は在院日数が長くなる傾向にあり、術前において退院遅延を予測するうえでのひとつの因子になり得ると推察する。

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