九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題9[ スポーツ・健康① ]
介護従事者を対象とした腰痛予防行動尺度の作成
O-052 スポーツ・健康①
吉村 玲往藤原 和彦小松 洋平
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p. 52-

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抄録

【目的】 保健衛生業では腰痛の発生件数が増加しており、保健衛生業での腰痛予防対策の推進は重要な課題である。腰痛は身体的負荷・心理的要因との関係が明らかにされており、それに伴う腰痛予防対策の研究も多い。しかし保健衛生業の中でも、介護従事者の腰痛予防行動の実施状況の実態を明らかにした研究は見つけることができなかった。そのため本研究では、介護従事者における腰痛予防行動の実態を調査し、腰痛予防行動尺度を作成する事を目的とした。

【方法】 対象は入所施設(5施設)で働く介護従事者176人とした。方法は基本属性、腰痛予防行動について無記名のアンケートにより聴取し、留置法で回収した。腰痛予防行動は厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」を参考に、複数の研究者で質問項目を検討し17問を設定した。回答は質問の腰痛予防行動を実施しているかを「全くしていない:1点」から、「非常に良くしている:4点」の4件法で聴取した。

 統計処理は、探索的因子分析(最尤法、オブリミン回転)を行った。カイザー基準での分析にて4因子が抽出された。なお、項目の削除基準は、因子負荷量0.40未満及び独自性0.84超過と設定した。

【結果】 回答者は144名(回答率81.8%)で、最終的な分析対象者は、129名(有効回答率73.3%, 平均年齢40.3±12.6歳、男性44名、女性79名)となった。腰痛予防行動の因子分析の結果、7項目が基準を満たさず、7項目を除外し再分析を行うと、単純構造が得られた。第1因子は「介護時・作業時に一定時間で姿勢の変更」など姿勢に関する3項目が高い因子負荷を示しており、「姿勢の工夫」因子と解釈した。第2因子は「湿布等の薬剤療法」など専門家への行動に関する4項目が高い因子負荷を示しており、「専門家への希求行動」因子と解釈した。第3因子は「筋力トレーニング」などセルフトレーニングに関する2項目が高い因子負荷を示しており、「セルフトレーニング」因子と解釈した。各因子の信頼性係数(McDonald’sω、Cronbach’sα)は姿勢の工夫(0.81, 0.80)、専門家への希求行動(0.75, 0.75)、セルフトレーニング(0.74, 0.74)であった。3つの因子の平均得点は、姿勢の工夫2.3±0.6、専門家への希求行動1.5±0.6、セルフトレーニング1.8±0.6であった。そして、これを「介護従事者の腰痛予防行動尺度」とした。

【考察】 対象者の年齢や男女比は厚生労働省や介護労働安定センターの調査と比較しても大きな差はなく、本研究対象者は母集団と同様な集団であると推察された。研究の結果、作成した本尺度は信頼性が認められた。また、「姿勢の工夫」は発症予防や重症化予防を行う1次・2次予防的行動、「専門家への希求行動」は腰痛発生後に重症化予防や治療の為に行う2次・3次予防的行動、「セルフトレーニング」は、腰痛発生前に発生予防もしくは、腰痛発生後に治療の為に行う1次3次予防的行動であった。3つの因子は腰痛予防行動を実施するタイミングの違いでもある。そのため構造的に妥当である。また3因子の平均点で比較すると、姿勢の工夫を最も高く、介護従事者は姿勢の工夫を最も行っていると推察できる。そのため理学療法士は介護従事者に介護姿勢の工夫をアドバイスすると腰痛予防が図れると考える。一方、本研究では対象者を入所施設で働く介護従事者に限定した。そのため、本尺度が介護従事者全般さらには他職種に研究結果が適応できるかは、更なる研究が必要である。

【まとめ】 今回、施設で働く介護従事者を対象とした腰痛予防行動尺度を作成した。最終的に9問の4件法の自己記入式アンケートが完成し、構造的的妥当性と信頼性が確認できた。

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