主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 53-
【はじめに】 変形性肩関節症は、近年高齢化社会の進行に伴い日本でも増加傾向にあり、年齢を重ねるごとに有病率が有意に高くなるとされている。腱板断裂性肩関節症において、近年では反転型人工肩関節置換術を用いることが増えている。それに伴い、同手術後の報告数も増加傾向にあるが、小径骨頭を用いた腱板縫合術または再建術の長期治療成績の報告は少ない。小径骨頭置換術は、腱板断裂性関節症および一次修復不能な広範囲断裂に対して用いられる治療法の一つである。今回、腱板断裂性関節症(以下、CTA)に対して小径人工骨頭置換術および肩甲下筋腱部分移行術を施行し、日常生活活動に必要な上肢機能を獲得後、4年間の長期経過観察可能であった1症例を報告する。
【症例紹介】 性別:女性、年齢:70代前半、身長:141 ㎝、体重:45 ㎏、既往:右THA、職業:農業(自営)、利き腕:右
【現病歴】 2017年末頃より右肩関節の可動域制限を自覚。MRI精査にて腱板断裂性関節症(大断裂)の診断を受け2018年に右CTAに対し、小径骨頭挿入および肩甲下筋腱部分移行術(cofield法)および上腕二頭筋長頭(以下、LHB)パッチ法、LHB腱固定術を施行し翌日よりリハビリ開始となった。
【術前評価】 右肩関節可動域:自動屈曲90度、外転120度、外旋10度、内旋胸椎レベル8、他動屈曲160度、外転160度、外旋45度、bearhugtest:陽性、painfularctest:陽性、轢音:あり、徒手筋力検査(右肩関節):外転3、外旋3、内旋4
【術後経過】 術後1週~肩甲骨自動練習開始。術後3週~肩関節全方向他動可動域練習開始。術後5週~仰臥位介助挙上練習開始。術後7週~仰臥位自動挙上練習開始。術後8週~立位自動挙上練習開始。術後3か月~軽作業開始。術後1年でリハ終了。以降外来1年ごとにフォローで経過観察。
【結果】 右肩関節可動域は自動屈曲150度、外旋10度、内旋胸椎レベル9となり右肩関節筋力は屈曲4、外転4、外旋3、内旋4で外来リハビリ終了となった。JOA scoreおよび右肩関節屈曲可動域の項目(1年/1.5年/3年/4年)で記載。JOA scoreの総計(77/88.5/83/83)、疼痛(20/30/25/25)、機能(13/14.5/17/17)、総合機能(3/5/7/7)、ADL群(10/9.5/10/10)、可動域(24/24/21/21)、挙上(15/15/12/12)、外旋(3/3/3/3)、内旋(6/6/6/6)、X線所見評価(5/5/5/5)、関節安定性(15/15/15/15)。右肩関節屈曲可動域(150度/150度/140度/135度)となった。
【考察】 谷口らの報告では、小径骨頭置換術後の肩関節屈曲可動域は平均124度とされているが、本症例は術後1年で肩関節自動屈曲150度となりJOA scoreのADL10点と挙上可動域も良好でADL自立レベルに至った貴重な症例と思われる。上肢機能の獲得のため術後から関節可動域練習、インナーマッスル筋力強化練習、骨盤運動、脊柱可動域練習を実施し術後8ヶ月で上記可動域を獲得することができた。特にインナーマッスル強化練習を実施する上で、残存筋の小円筋収縮練習を取り入れたことが上肢機能の改善につながった要因の一つと考える。本症例において術後4年経過時でもADL自立レベルの上肢機能を維持できているのは、リハビリ意欲が高く、自主練習である肩甲骨体操およびインナーマッスル筋力強化練習を継続的に実施できていること。また、現役で仕事を続けており仕事柄上肢挙上位での作業が多く、上肢使用の頻度が高いことで上肢機能の維持につながっていると考える。今後は症例数を増やし機能改善に至った要因をより多く検討していく必要がある。