九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題10[ 骨関節・脊髄③ ]
神経痛性筋萎縮症を呈した患者の理学療法の小経験
O-054 骨関節・脊髄③
吉野 温翔辛嶋 良介川嶌 眞人
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p. 54-

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抄録

【目的】 神経痛性筋萎縮症(以下、NA)は一側上肢の神経痛で発症し、疼痛の軽快後に限局的な筋萎縮を生じる疾患であり、腕神経叢及びその近傍の末梢神経を主病変と考えられている特発性神経障害である。現在、NAについて確立された治療法はなく理学療法に関する報告も皆無である。今回、本症に対して理学療法を行った経過に関する小経験について報告する。

【症例紹介】 50歳代の男性で、右利き、職業は製造業であった。特筆すべき既往歴はなかった。

 主訴は左肩関節の自動挙上困難であり、患者全体像は前向きの発言が多くみられ、病態の理解が良好であった。

【現病歴】 2021年6月頃より誘因なく左上肢の脱力感が出現し、同年8月に当院を受診するも、精査目的で他科へと紹介となった。その結果、針筋電図では三角筋と上腕二頭筋に脱神経電位を認め、腕神経叢レベル(C4、5)の障害と判断され、疼痛のない非典型の神経痛性筋萎縮症と診断された。

 2021年8月より当院での理学療法開始となった。左三角筋の筋萎縮を認め、MMTでは三角筋2、上腕二頭筋3、棘下筋3と筋力低下を認め、握力は右31.3 ㎏、左21.8 ㎏であったが、感覚異常は認めなかった。患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver. 1.3(以下、SF36)では、疼痛3.6点、可動域2.8点、筋力1.8点、健康観3.2点、日常生活動作2.6点、スポーツ能力0.5点であり、日常生活では挙上動作や重量物の把持が困難であり仕事動作に支障が生じていた。

【理学療法】 他院では免疫グロブリン療法、ステロイドパルス療法を施行していた。当院では初期に肩関節・肘関節の自動介助運動、萎縮筋に対して電気刺激と自動運動を組み合わせて実施した。筋力の改善状況を確認して、自動運動やセラバンドを用いた抵抗運動などを実施した。また、仕事が製造業であり、上肢への負担が大きくなることを想定し、低負荷で高頻度の運動も行った。

【経過】 6ヵ月後、左三角筋の筋萎縮はやや改善がみられ、MMTでは三角筋3、上腕二頭筋4、棘下筋3と軽度の改善がみられたが、握力の変化はなかった。1年後、握力は右33.5 ㎏、左25.6 ㎏と改善、三角筋の筋萎縮もさらに改善がみられたが、左右差は著明であった。1年半後、左三角筋の筋萎縮は改善し、MMTでは三角筋5、上腕二頭筋5、棘下筋4、握力は右34.7 ㎏、左30.5 ㎏と改善した。SF36は、疼痛4.0点、可動域3.9点、筋力3.3点、健康感3.8点、日常生活動作3.9点、スポーツ能力2.5点であり、自覚的にも筋力の回復を認めた。

【考察】 NAに対する治療としては免疫グロブリン療法やステロイドパルス療法が行われることが多く、緩徐に症状が軽快し90%以上で回復するとされているが、なかには運動麻痺や疼痛が残存するとの報告もあり、いまだに確立した治療はない。

 末梢神経由来の萎縮筋に対しての理学療法では、一般的に筋力トレーニングや電気刺激療法が行われる。本症に対しても筋力増強運動と電気刺激療法を併用し、筋萎縮予防と筋力向上を目的とした。しかし、萎縮が強い症例は介入後の反応が出にくいため、当該筋に正確に刺激を加えられているか、判断が困難であった。

 NAの経過は長期に及ぶとされているが、本症の経過も同様に6ヵ月頃から改善がみられ、筋力としての改善は1年を要した。本症は、病態の理解が良好であったため、辛抱強く治療の継続は可能であったが、不安が強い等、症例によっては関わり方も考慮する必要があると思われた。

【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、口頭にて十分説明を行い同意を得た。

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