九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題10[ 骨関節・脊髄③ ]
下咽頭癌の術後に長期間経過した症例に対する理学療法の経験
O-057 骨関節・脊髄③
赤﨑 将太寺川 智
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p. 57-

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抄録

【はじめに】 頭頸部癌に対する頸部郭清術後には様々な後遺障害が生じるため、術後早期のリハビリテーション(以下、リハビリ)介入が推奨されている。しかし、術後長期間経過後の理学療法介入の報告はほとんどない。今回、主訴の変化に応じて頸部前面部に着目し介入したことで主観的な喉の締め付け感が改善し、姿勢の修正と上肢機能の向上に繋がった症例を経験した。

【症例紹介】 症例は、肩関節に既往のない50歳代男性。X年5月にA病院で下咽頭癌に対する咽頭摘出・両頸部郭清・遊離空腸再建術が行われ、約半年後にリハビリ目的で当院紹介。X年10月に下咽頭癌術後障害、両肩関節痛の診断で週2回の外来リハビリ開始。主訴は疼痛無く上肢が挙がり、趣味のドライブをしたい。頸部前面には永久気管孔が造設してあり、スカーフで覆われていた。

 初期評価は、疼痛検査としてNumerical Rating Scale(以下、NRS)は自動運動の両肩関節屈曲で7/10、感覚検査は頸部前面部に鈍麻・痺れあり。関節可動域(以下、ROM)は自動運動で両肩関節屈曲95°・外転80°、頸部屈曲30°・伸展10°・回旋25°・側屈15°、徒手筋力検査(以下、MMT)は両肩関節屈曲・外転3レベル、頸部屈曲2レベル、屈曲以外3レベル。整形外科的テストとしてNeer testは陽性。座位姿勢は頸部屈曲を伴った頭部前方位姿勢。頸部郭清術後問診票(簡易版)はQ1~Q8がそれぞれ(1, 1, 1, 2, 3, 1, 3, 1)であった。

【経過と結果】 理学療法は、両肩関節と頸部のROM練習と筋力増強練習、姿勢の再教育を行った。また、時期に応じて自主練習を指導していたが、十分な満足度を得られていなかった。疼痛が軽減した介入1ヶ月後より車の運転が再開できたため、症例の訴えは肩関節痛から喉の締め付け感へと変化した。そこで、両頸部郭清術後の頸部前面部の皮膚・皮下組織(以下、軟部組織)へ着目したが、他部位と比較すると皮膚の血色は悪く、伸張性が乏しいために軟部組織を摘むことができない拘縮様の状態が広範囲にあった。そこで、軟部組織モビライゼーションを追加した。その結果、軟部組織の伸張性が向上し、喉の締め付け感・姿勢・上肢機能の改善に繋がった。

 介入3か月後のX年12月の最終評価では、NRSは1/10、感覚検査は鈍麻、痺れあり。ROMは両肩関節屈曲170°・外転160°、頸部屈曲50°・伸展35°・回旋45°・側屈35°、MMTは両肩関節屈曲・外転5レベル、頸部屈曲2レベル・屈曲以外5レベル。Neer testは陰性。座位姿勢は修正座位が可能。頸部郭清術後問診票(簡易版)はQ1~Q8がそれぞれ(3, 3, 4, 4, 4, 5, 4, 3)であった。

【考察】 頸部前面部の軟部組織の伸張性向上により主観的な喉の締め付け感が改善し、姿勢の修正と上肢機能が向上したと考えた。沖田によると、関節可動域制限の約1割は皮膚の変化に由来することもあきらかになっていると報告している。本症例においても軟部組織への介入により伸張性が向上し、喉の締め付け感と頸部ROMが改善した。また、野村らは座位における後弯姿勢に伴って肩峰-上腕骨頭間距離が減少し、肩甲骨の上方回旋・内旋が生じることで肩峰下インピンジメントを引き起こす可能性があると報告しており、軟部組織介入後より修正座位が可能となり肩甲骨の位置が修正されたことで疼痛は軽減し、上肢機能が向上したと考えた。

 術後早期より軟部組織へ介入することは重要であるが、術後長期間経過した拘縮様の伸張性が低下している軟部組織であっても介入により改善する可能性があることが示唆された。

【倫理的配慮、説明と同意】 発表にあたり患者へ内容について文書と口頭で十分説明し、対象になることについて書面にて同意を得た。

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