九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題10[ 骨関節・脊髄③ ]
上腕骨近位端骨折の術後2週目における肩関節ROM と短期・長期的な肩関節ROM の関係
O-058 骨関節・脊髄③
西園 太志西牟田 亮田中 佑一
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p. 58-

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抄録

【はじめに、目的】 上腕骨近位端骨折の術後リハビリは、より早い社会復帰を目指すため、術後早期から肩関節の関節可動域(以下、ROM)練習を開始することが多い。しかしながら、術後急性期は手術の侵襲に伴う疼痛や筋スパズムにより、ROM練習が滞ることがある。肩関節の拘縮が生じた場合、結髪動作や更衣動作等の日常生活動作(以下、ADL)が低下しうる。先行研究によると、不動を開始して4週後までは拘縮の進行が著しいとされている。したがって、上腕骨近位端骨折の術後リハビリにおいても、術後の拘縮予防のため術後4週目までに一定のROMを獲得する必要があると考える。臨床上、術後早期に良好な肩関節ROMを獲得した場合、その後のROMの経過も良い傾向にあることを経験するが、その関係を検討した報告は見当たらない。よって、本研究は上腕骨近位端骨折の術後急性期における肩関節ROMと短期・長期的な肩関節ROMの関係を明らかにすることを目的とした。

【方法】 対象は当院で2015年1月から2018年12月まで上腕骨近位端骨折のNeer分類における3-part骨折に対して骨接合術を施行した症例のうち、終診時まで経過観察可能であった17名(男性7名、女性10名、平均年齢61±12.0歳、平均観察期間37±14.5週)とした。方法は、術後2週目、術後4週目、術後8週目、終診時の肩関節屈曲可動域をカルテから後方視的に抽出した。統計処理は術後2週目と術後4週目、術後8週目、終診時のそれぞれの肩関節屈曲可動域との関係をスピアマンの順位相関係数を用いて解析し、有意水準は5%未満とした。

 本研究は、倫理的配慮として、ヘルシンキ宣言に基づき対象者における個人情報の保護等を十分に留意し、匿名化した上で実施した。

【結果】 各観察期の肩関節ROMの平均は術後2週目105±17.8°、術後4週目119±18.0°、術後8週目127±14.0°、終診時149±19.1°であった。

 各観察期それぞれの肩関節ROMの相関関係は術後2週目と術後4週目において有意な相関(rs=0.63, p=0.012)を認め、その他の観察期との間にはいずれも有意な相関を認めなかった。

【考察】 本研究の結果、上腕骨近位端骨折術後の肩関節ROMは術後2週目と術後4週目の間にのみ優位な相関を認めた。臨床上、術後急性期は侵襲部における疼痛や筋スパズム等の炎症症状がリハビリの進行に影響を与える。したがって、術後2週目の肩関節ROMは急性期における炎症の程度に依存し、術後4週目までその影響が及ぶと考える。術後2週目と術後8週目および終診時の肩関節ROMが相関を認めなかった理由は、退院後の生活状況や活動性の個人差が術後8週目以降のROMに影響を与えたためと考えた。臨床応用として、術後4週程度の短期的なADLは、術後2週目の肩関節ROMを参考にし、介助量の調整や環境設定を行うことが有効であると考える。今後はよりADLとの関連が強い、疼痛や自動ROMおよび日常生活動作評価を含めた検討を行いたい。

【まとめ】 本研究では、上腕骨近位端骨折術後の急性期と短期および長期的な肩関節ROMとの関係を検討した。結果、上腕骨近位端骨折の術後2週目の肩関節ROMは術後4週目の肩関節機能を予測するための一要因であることが示唆された。

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