九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題13[ 測定・評価① ]
地域在住中高年者の最大歩行速度には体幹筋量が関係する
O-072 測定・評価①
井手 翔太郎釜﨑 大志郎八谷 瑞紀久保 温子大川 裕行坂本 飛鳥藤原 和彦藤村 諭史田中 勝人大田尾 浩
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p. 72-

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抄録

【目的】 歩行速度は、中高年者の身体機能を示すバイタルサインとされている。日常生活のなかで横断歩道を青信号のうちに渡るために歩く速度を上げるような場面がある。このように、中高年者の最大歩行速度は日常生活を送るうえでも重要なパフォーマンスの一つである。我々は、その歩行速度には四肢の筋力やバランス能力のみならず、体幹筋量も関与すると仮説を立てた。そこで本研究の目的は、地域在住中高年者の最大歩行速度と体幹筋量の関係を検討することとした。本研究の結果が明らかになることで、地域在住中高年者の歩行能力の維持および向上させる理学療法の一助になると考える。

【対象と方法】 対象は、地域で実施している体力測定会に参加した中高年者とした。基本情報として性別、年齢を記録し、身長、体重、body mass index(BMI)を測定した。測定項目は、最大歩行速度、体幹筋量、握力、膝伸展筋力、30-secondchair stand test(CS-30)、開眼片脚立ち時間、痛みの数、mini mental state examination(MMSE)とした。統計解析は、まずPearsonの相関分析で各測定項目の関連を確認した。次に、最大歩行速度を従属変数、体幹筋量を独立変数とした単回帰分析を実施した。さらに、共変量と考えられる変数を投入した重回帰分析を実施し、交絡の調整を図った。なお、重回帰分析の最終モデルで必要なサンプルサイズを効果量(f2)=0.35、αエラー=0.05, power=0.8、独立変数=8に設定して算出した結果52名であった。

【結果】 分析対象者は、必要なサンプルサイズを満たす地域在住中高年者72名(平均年齢74±7歳、女性75%)であった。相関分析の結果、最大歩行速度と有意な相関を認めた項目は、体幹筋量(r=0.39, p<0.01)とCS-30(r=0.36, p<0.01)であった。また、重回帰分析の全てのモデルにおいて、最大歩行速度には体幹筋量が有意に関係した(最終モデル:標準化係数=0.38, p=0.001)。

【考察】 本研究の結果、最大歩行速度には体幹筋量が関係することが明らかになった。体幹筋量が減少すると、体幹の安定性が低下し、歩幅が短縮するとの報告がある。また、体幹が不安定だと、下肢の運動が円滑に行えないとの報告もある。このように、体幹筋は姿勢を制御する役割があることから、最大歩行速度と体幹筋量に関係が認められたと推察する。実際に、体幹筋量の減少や加齢による脊椎の後彎変形が歩行速度に関与すると報告されている。本研究では、脊椎アライメントの評価を行っていないため言及できないものの、体幹筋量が少ないと、体幹の姿勢を制御できずに最大歩行速度が低下している可能性も考えられる。

【結論】 地域在住中高年者の最大歩行速度には、体幹筋量が関係することが明らかになった。このことから、四肢の筋力や身体機能に加えて体幹筋量を評価する重要性が示された。また、今後のさらなる調査が必要ではあるが、体幹筋量にアプローチすることで歩行能力の向上に寄与する可能性が示された。

【倫理的配慮・説明と同意】 対象者には、研究の趣旨と内容について説明し、理解を得たうえで協力を求めた。本研究への参加は自由意志であり、拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。本研究は西九州大学倫理委員会の承認を得て実施した。

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