九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題2[ 成人中枢神経② ]
脳梗塞発症3ヶ月が経過した重度左片麻痺患者に対して歩行距離に着目した介入が奏功した1症例
O-009 成人中枢神経②
荒木 翼
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キーワード: COVID19, CVA, 歩行距離
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p. 9-

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抄録

【はじめに】 今回、COVID19感染し、療養中に脳梗塞を発症した左片麻痺患者を担当した。脳梗塞発症後、意識レベルと呼吸状態が悪化し気管切開を施行、呼吸器管理が必要となった。状態が安定せず、抜管に1ヶ月以上を要したこと、隔離措置のため早期の退院調整が行えなかったことにより3ヶ月が経過しての回復期病院へ転院となった。隔離期間中は、早期のリハビリ介入が行えず、廃用症候群を生じていた。廃用症候群の改善と非麻痺側機能強化目的に、歩行量を確保することで介助下での歩行を獲得した。その経過をここに報告する。

【倫理的配慮・説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、本症例には発表に関しての趣旨を説明した上で、同意を得た。

【理学療法初期評価】 年齢:60代、性別:男性、診断名:塞栓性脳梗塞、Demand:「歩けるようになって、仕事復帰がしたい。」

 JapanComaScale(以下、JCS):Ⅰ-2、Brunnstrom Stage(以下、Brs):上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅱ、感覚:表在・深部共に重度鈍麻(1/10)、握力(R/L):5/0 ㎏、下腿最大周径(R/L):32/30 ㎝、Functional Independence Measure(以下、FIM):運動44点 認知24点 計68点、基本動作:全介助、歩行様式:長下肢装具(以下、KAFO)にて最大介助

【経過】 回復期病院転院翌日よりリハビリ介入。介入当初より起立訓練、歩行訓練を中心に実施。起立訓練は50回を目安。歩行訓練は、KAFO装着下で1,000mを目標とした。嚥下状態は問題なく、早期にST終了しPT5単位、OT4単位で介入を行った。介入1週目はKAFO装着下、最大介助にて700~1,000m、KAFO+1本杖にて50m3set実施。介入2週目に、KAFOと短下肢装具(以下、AFO)の併用を開始。4週目に、AFOへ移行し300m~500mを実施。訓練にパワーリハビリテーションを追加。生活面では、病棟ADLに歩行を導入。2ヶ月目にはAFO+1本杖にて700mを介助下で実施。3ヶ月目にはAFO+1本杖にて50mを監視下で歩行可能となる。5ヶ月目に自宅退院。

【理学療法最終評価】 JCS:清明、Brs:上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅲ、握力(R/L):19.7/0 ㎏、下腿最大周径(R/L):33 ㎝/34 ㎝、FIM:運動59点 認知30点 合計89点、基本動作:起き上がり、座位保持自立、移乗監視、歩行様式AFO+一本杖最小介助、10m歩行:14.7秒 18歩

【考察】 脳血管障害による機能障害の可塑性は約3ヶ月でプラトーに達すると言われている。本症例は、回復期病院入院時すでに発症から3ヶ月が経過。機能障害へのアプローチより、歩行や起立訓練で運動学習を促進に比重を置いた。

 脳卒中ガイドライン2021では、運動障害に対して、課題に特化した訓練量、頻度の増加が勧められており、歩行機能改善のため、頻回な歩行訓練を行うことを勧められている。本症例においても、KAFOの時期は1回訓練で1,000m、AFOでは500mを目標とした。病棟内ADLに歩行を導入することで歩行量の確保ができたと考える。動作の反復により運動学習、錐体外路系が促進され自動歩行能の強化に繋がったと考察する。COVID19感染の療養時に生じた廃用性筋力低下も訓練量確保により改善を認め、歩行獲得の一助になったと考える。

【おわりに】 回復期病院において脳梗塞発症3ヶ月が経過した状態からリハビリ介入する機会は少なく、貴重な経験となった。

 脳卒中ガイドラインでは、訓練量の確保や頻度の増加は勧められているが、明確な歩行距離を示した文献は少ない。年齢や性別、疾患の重症度により歩行距離を定めることは難しいと思われるが、一人一人に合わせた歩行量の設定を心がけていきたい。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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