主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 10-
【はじめに】 脳卒中後症例において、拡散テンソルトラクトグラフィー(Diffusion tensor tractgraphy;DTT)を用いて仮想的に描出された皮質脊髄線維(Corticospinal tract;CST)と皮質網様体線維(Corticoreticular tract;CRP)の損傷程度を定量的に評価することは、歩行能力の予後を高い精度で予測し得ることが報告されている。しかしながら、先行研究の多くで着眼している歩行能力は「歩行自立度」であり、脳卒中後症例の歩行リハビリテーションで問題となりやすい「異常歩行パターン」との関連は不明である。そこで本研究では、脳卒中後症例に特有な異常歩行パターンの一つである歩行の左右非対称性に着目し、CSTとCRPの損傷程度との関連性について分析した。
【方法】 対象は脳卒中片麻痺患者11例であった。測定課題は最大速度によるトレッドミル歩行とし、三次元動作解析装置(KinemaTracer、キッセイコムテック社製、CCDカメラ:4台、計測周期:60 ㎐)を用いて座標データを取得した。歩行の左右非対称性の指標として、左右の遊脚期時間からSymmetry Ratio(SR)を算出した。また、DTTは1.5T超電導MRI装置(ECHELON RX, HITACHI社製、撮像条件:TE 90ms, repetition time 4,900ms, slice thickness 5 ㎜, FOV 23.0×23.0 ㎝, recon matrix 256×256, freq/phase 96×96, voxel size 2.395×2.395×5.0 ㎜, bandwidth 250k㎐, b-value 500s/㎜2, number of diffusion-encoding directions 13)にて拡散テンソル画像を撮像し、DSI-studioを用いて両側のCSTとCRPを描出した。描出の方法について、CSTの関心領域(ROI)は中脳大脳脚、CRPのROIは中脳被蓋に設定し、それぞれの線維追跡(閾値:FA 0.2, angular 50)を行った。この際、明らかにROIから逸脱した軌跡を任意にて削除しながら、CSTとCRPを同定していった。その後、CSTとCRPそれぞれのFractional Anisotropy(FA)値とFA値の左右比(FA比)、Fiber Volume(FV)値とFV値の左右比(FV比)をDTTパラメーターとして算出した。加えて、臨床評価指標として、FMA-LE(運動麻痺)、FMA-sensory(感覚障害)、TIS(体幹機能)、Mini-BESTest(バランス)、mGES(歩行自己効力感)を測定した。統計は各変数の正規性を確認した後、Spearmanの順位相関係数を用いて、SRとDTTパラメーターならびに臨床評価指標との関連性を分析した。
【結果】 SRはFMA-LE(r=-0.72, p<0.05)とCRPのFV比(r=
-0.74, p<0.05)に有意な負の相関を認めた。一方、その他の変数に有意な相関は認めなかった。
【考察】 より左右非対称な歩行パターンを呈する症例ほど、損傷側CRPの損傷程度が大きいことが示された。CSTは四肢遠位筋の運動を、CRPは体幹と四肢近位筋の運動を司り、特にCRPは協調的な姿勢・歩行制御への関与が大きいとされる。歩行の左右非対称性は様々な要因(運動麻痺や痙性、バランスなど)が複雑に関与するが、その説明要因の一つとして、CRPの損傷によって生じる歩行制御の変調を反映した結果、左右非対称な歩行に至っている可能性が考えられる。本研究より、歩行の左右非対称性とCRPの損傷程度の関連を評価することは、歩行障害の病態解釈や介入指針を立案する上で有益な情報になると考えられた。
【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象には十分な説明を口頭で行い、同意を得た。