九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題17[ 成人中枢神経③ ]
免疫介在性壊死性ミオパチーにより近位筋の著しい筋力低下を呈した症例に対し、IADL 自立に向けたステロイド療法と運動療法について
O-098 成人中枢神経③
相田 涼太郎
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p. 98-

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抄録

【はじめに】 筋病理学的に壊死と再生を主体とする免疫介在性壊死性ミオパチー(以下、IMNM)により近位筋を主体に筋力低下を呈した症例を担当する機会を得た。病前の生活と同様にADLの自立を目指し、クレアチニンキナーゼ(以下、CK)の数値を参考に積極的に運動療法を行ったことで自宅復帰を果たしたため、経過を報告する。

【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者の個人情報保護には十分留意している。

【症例紹介】 本症例は50歳代の男性で、上下肢の筋力低下を自覚され、その翌年に嚥下障害が出現したことから検査入院となり、近位筋を主体に筋力低下、3,000~4,000のCK値の上昇を認め、針筋電図で活動性ミオパチーの所見、筋生検の結果から本疾患の診断となった。ステロイド治療に抵抗があり、外来で経過をみていたが、症状の悪化に伴い経口ステロイド療法を開始した。その後CK値の改善が認められ、前院入院から85日目に当院へ転院となりリハビリテーション(以下、リハビリ)が開始となった。本人のDemandは病前の生活に戻ることであり、Needは、屋内の自立歩行の獲得とADL自立、外出や自動車の乗降動作の自立であった。入院時のMMT(右/左)は三角筋2/2、上腕二頭筋3/3、腸腰筋1/1、大腿四頭筋1/1、ハムストリングス・下腿三頭筋3/3、握力10/9(㎏)、FIMは53点(運動項目28点、認知項目25点)、CK値は2,604であった。最終目標にADL自立に伴う自宅復帰、IADLの自立を挙げ理学療法の介入を開始した。

【経過】 筋繊維の壊死や不活動に伴う筋力の低下を治療課題として、膝関節伸展や股関節内外転のパワーリハビリや起立、スクワット等の筋力増強練習、歩行等の日常生活動作練習を実施し改善を図った。介入25日目に端座位保持、プッシュアップ動作での離殿が可能となり、日中の車椅子駆動や起居動作、ベッドと車椅子間の移乗が自立に至ったが、起立における離殿や伸展相の形成は困難であった。そこで、ニーリングでのスクワット、腕立て伏せや四つ這い移動を導入し、股関節周囲筋や体幹筋の活動をより容易にするよう調整を行った。CK値は2,057であったが、主治医と相談し、ステロイドを服用しつつ本人の状態に合わせて運動療法を継続していく方針となった。介入39日目にCK値は1,306に推移し、起立はプッシュアップから登攀様に行うことで見守り、屋内歩行はT杖見守りで可能となった。リハビリ介入時には個浴練習や屋外を想定した歩行練習を行い、余暇活動として車椅子上で取り組める自主練習を実施した。介入70日目に自宅へ退院となった。最終評価時のMMTは三角筋3/3、上腕二頭筋4/4、上腕三頭筋4/4、腸腰筋3/3、大腿四頭筋4/4、ハムストリングス・下腿三頭筋4/4、握力19.5/21.6(㎏)、10m歩行は7.24秒であった。FIMの運動項目は83点で日中の屋内移動は伝い歩き自立、屋外の移動にはT杖と車椅子を併用した。退院後のCK値は1,500台と高値であるが、ADLの自立度は維持され、家族と旅行等も行えていると本人より聴取された。

【考察】 本症例は近位筋を中心とした筋力低下に伴い、基本動作やADLの自立度低下が著明であった。自宅復帰に向け、上下肢の筋力改善のみならず、動作に即した筋出力の獲得が課題であった。そこで身体機能に合わせて、環境や方法、難易度を調整し積極的に運動療法を実施したことで課題の解決に伴い、ADLの自立に至った。本症例において、CK値を参考にすることや課題指向的なアプローチを行ったことが目標達成に至った要因であると考える。IMNMにより近位筋を主体とした筋力低下を来す患者に対し、経口ステロイド療法を行いつつ、積極的に運動療法を行うことは、ADLの自立度向上に向けた重要な取り組みであると考える。

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