主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】野球選手の肘関節尺側側副靱帯(以下UCL)損傷は保存療法が第一選択となる.しかし,保存療法に抵抗する一つにUCL遠位障害があげられ,近位部損傷と比較し遠位部損傷は競技復帰率が低いと報告されている.今回,成人期野球選手のUCL遠位損傷に対して理学療法に体外衝撃波治療(Extracorporeal Shock Wave Therapy:以下ESWT)を併用し,早期競技復帰を果たした症例を報告する. 【症例紹介】 20代男性.軟式野球投手.右投右打.主訴は,リリース時の肘関節内側の痛みであった. リーグ戦参加のため早期競技復帰を希望された.現病歴はX-3か月,先発投手として完投し,試合後外野ノックでホームへ返球した際に疼痛出現.X日病院受診し,MRIにてUCL遠位損傷と診断され,同日に理学療法,ESWTを開始した. 【経過】X日の初期評価(投球側/非投球側)にてUCL鈎状結節付着部の圧痛(+)/(-),ROMは肘関節屈曲130°/145°,伸展-5°/0°,MER 115°/130°,肩後方タイトネス(++)/(+)であった.浅指屈筋(以下FDS)の測定に関しては超音波画像診断装置にて肘関節鈎状結節レベルでFDSを描出し,筋断面積を測定した.測定した筋断面積を安静時面積/各筋の収縮時面積×100(%)で求めた.FDS収縮効率は示指105/117,中指105/115,薬指107/102,小指95/98であり,投球側のFDS収縮効率が低下していた.理学療法は前腕回内屈筋群のストレッチや筋力強化,胸郭,肩後方の柔軟性及び機能訓練を実施した.ESWTはStorz Medical社のDuolith ®︎SD1 Ultra を使用.照射方法は,患者仰臥位で,肩外転90°,肘伸展0°として,画像所見や圧痛部位にて照射部位を決定し,患者が許容できる最大強度で1回2000発を1週ごとに5回実施した.X+3週の中間評価(投球側)にて圧痛(-),肘関節屈曲140°伸展0°,MER130°,肩後方タイトネス(+)と改善していた.FDS収縮効率は示指123,中指124,環指121,小指106で収縮効率が向上していた.UCL圧痛,外反ストレス痛, MER時痛がないことを確認し,投球開始した.投球はシャドーピッチングから徐々に負荷を上げ,14mでのキャッチボールからPULSE Throw (以下外反センサ)とZETT社製Technical Pitch (以下IOTボール)を用いて身長・体重から示した外反トルク値と投球効率(外反トルク/球速)を参考に投球強度の管理を行いながらが本症例の最適値内で投球を許可した.X+3週で外反トルクは平均32N,投球効率は平均0.33で内野手として競技復帰し,X+6週で外反トルクは平均31.2N,投球効率は平均0.28で投手復帰した. 【考察】投球障害肘は投球時,繰り返しの外反ストレスによって発生する.特にUCL遠位部は肘外反力に抵抗しており,重症度によるが遠位部損傷が再建術の必要性に関係すると言われている.近年,外反ストレスに対する動的安定化機構として回内屈筋群が重要な役割を果たすと言われており,星加らは示・中指FDSの張力が動的安定化構造に最も寄与していると報告している.ESWTは腱付着部症に対して有効性が示されており,投球障害肘の治療としても症例報告が散見される.ESWTの効果として自由神経終末の破壊などの除痛効果や二次的効果として血管新生,コラーゲン産生による組織修復,さらに一酸化窒素(NO)合成増加による筋緊張の軽減が報告されている.理学療法にESWTを併用することで介入早期からの除痛効果とUCLの組織修復,FDS筋機能改善が得られ,早期競技復帰を果たすことができた. 【結論】・UCL遠位損傷に対してESWTにて除痛と組織修復,FDS筋緊張軽減を図った.投球開始後は外反センサとIOTボールにて客観的フィードバックを行いながら投球強度を高めた.理学療法にESWTを併用し安全かつ早期での競技復帰を果たした. 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言の倫理規定に基づき,対象者に趣旨を説明し,同意を得た上で実施した.