九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O14-4
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セッションロ述14 成人中枢神経4
補足運動野の障害を呈した患者にHAL-SJを使用した一例
一ノ瀬 晴也石橋 和博春田 峻也黒木 遥松島 勇佑若菜 理春山 裕典一ツ松 勤
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抄録

【目的】 補足運動野 (supplementary motor area:以下SMA)は前大脳動脈により栄養される。そして運動準備やリズム変換、運動の順序制御等の高次な運動制御に関与している。 補足運動野の障害では運動開始遅延が起こるために、臨床場面では歩行や排泄動作の自立に難渋する場合もある。よって、運動開始遅延を呈している症例に対しては理学療法の内容を特に吟味する必要がある。Hybrid Assistive Limb (以下HAL®)は、筋収縮時の生体電位を検出し、実際の運動現象と運動意図による理想的な運動パターンとの差分を最少化する特徴があるとされるが、運動開始遅延に対して用いた報告は極めて少ない。今回、HAL®自立支援用単関節タイプ (Single Joint type of HAL;以下HAL-SJ)を用いた訓練により下肢運動機能が改善し、ADL拡大に至った症例を経験したため報告する。 【症例紹介】 入院前ADL自立の55歳男性、BMI:21.0kg/m²、既往歴なし。右下肢脱力を主訴にX日に救急要請となった。同日、左前大脳動脈閉塞に対し組織型プラスミノーゲンアクチベータ投与と機械的血栓回収療法が施行された。初期評価 (X+1日)での意識清明で、Brunnstrom Stage(BRS)はⅥ-Ⅵ-Ⅳであった。下肢粗大筋力は右4左4、足関節背屈のMMTは右4左4、Fugl-Meyer Assessment下肢項目 (以下FMA-LE)は25/34点、Functional ambulation Categories (以下FAC)は2点であった。 【経過】 X+2日に医師より離床指示あり、自動座位訓練や立位訓練より開始した。X+3日に車椅子を使用してトイレ移動・トイレ内動作が可能となった。しかし、X+4日に発症時と同領域の梗塞巣の拡大があり、下肢筋力低下を呈し、特に右足関節背屈のMMTは4から0となった。また、自発性の低下を認め、歩行や移乗時の指示理解が不良となった。X+7日よりHAL-SJを導入 (モード:Standard/合計回数:50-200回)し、X+8日までの2日間は膝関節タイプを使用し、適宜評価を重ねながらHAL-SJの設定変更を行った。また、X+9日より足関節タイプへ移行し、7日間実施した。最終的に右足関節背屈のMMTはpoorまで改善した。FMA-LEはX+13日に27点まで改善し、X+12日にトイレ歩行へとADLを拡大した。そしてX+19日に棟内歩行自立までADL拡大が可能であり、FMA-LEは33/34点、FACは4点まで改善した。その後、X+26日に回復期病院へ転院となった。 【考察】 前大脳動脈梗塞によりSMAが障害され、体性感覚入力や運動発現までの適切な出力、計画が困難であったと考えられた。運動開始遅延が理学療法の阻害因子と考えられた本症例に対して、HAL-SJによる筋収縮時の生体電位感知による運動現象と運動意図による理想的な運動パターンとの差分を最少化するという特徴が奏功したために筋力の改善をはじめとする身体機能検査の改善の補助的役目を果たしたと考える。HAL-SJは正しいフィードバックのもと使用することで、通常の理学療法のみと比べ、早期の下肢運動機能向上に繋がることで、ADL獲得までの期間短縮に関与する可能性がある。 【倫理的配慮】発表にあたり、患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、口頭にて説明を行った上で同意を得た。

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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