主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】 理学療法を実施する上で歩行動作能力を検討することは重要である.近年,臨床において簡便な歩行時の質的評価として規律性や対称性の指標であるHarmonic Ratio (以下,HR)の研究が増加している.2023年度の九州理学療法士学術大会にて高齢健常者と股関節外傷術後患者における1歩行周期の規則性を評価したストライドHR (sHR)の有用性について報告した.しかし,HR,sHRと異なる歩行速度の関係性を多次元的に検討した報告はない.そこで本研究の目的は主成分分析を用いて異なる歩行速度との相互関係を検討することとした. 【方法】 対象は60歳以上の高齢健常女性20名 (健常群),及び過去に認知症の既往がなくMMSE24点以上の股関節外傷術後の女性24名 (股関節外傷群)とした.計測にはワイヤレスモーションセンサSS-MS-HMA16G15 (スポーツセンシング社製)を用い,伸張バンドにて被検者の第3 腰椎棘突起部に位置するように固定した.サンプリング周波数は100 Hzとした.歩行動作は前後に3 mの補助路を設け,定常歩行10 mを計測した.課題動作は快適速度歩行 (以下,快適歩行)と最大速度歩行 (以下,最大歩行)とした.股関節外傷群の計測は術後7週間を目安とし,歩行動作が自立レベルで退院準備期に実施した.解析指標は1歩を1周期として1歩行周期を離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform : DFT)し,20周期までを解析対象としたHRと,1歩行周期(ストライド)を1周期として2歩行周期をDFTし,40周期からsHRを算出した.統計学的処理は健常群と股関節外傷群において,歩行速度とHRの各変数間の相互関係を検討するために主成分分析を実施した.主成分は固有値が1以上となる成分までを求め,主成分負荷量の絶対値が0.6以上の変数を主成分の主要な変数として解釈した.統計解析にはWindows版のR4.2.3(CRAN, freeware)を用いた. 【結果】 健常群の第1主成分を構成する変数は最大歩行速度(主成分負荷量: −0.89),最大歩行HR(0.77),快適歩行HR(0.74),快適歩行速度(−0.66)であった (寄与率41.5 %).第2主成分は最大歩行sHR(0.76),第3主成分は快適歩行sHR(0.87)で構成された.股関節外傷群の第1主成分を構成する変数は快適歩行sHR(0.79),最大歩行sHR(0.75),最大歩行速度(0.74),快適歩行速度(0.72)であった(寄与率45.8 %).第2主成分は最大歩行HR(0.64),第3主成分は快適歩行HR(0.61)であった. 【考察】 健常群における第1主成分は動作の速さと1歩を1周期とした規律性に影響を受ける変数で構成された.歩行速度が遅いほど規律性が高い可能性を示しており,歩行の制御力の成分と解釈した.第2主成分は最大歩行における1ストライドごとの規律性,第3主成分は快適歩行の1ストライドごとの規律性で構成された.一方,股関節外傷群における第1主成分は動作の速さと2歩を1周期とした規律性に影響を受ける変数で構成された.加えて,1ストライドごとの規律性が高いほど歩行速度が速い可能性が示唆された.同じ課題動作で評価した場合でも状況によって主要な評価指標は異なり,多角的に評価する必要性が示唆された. 【倫理的配慮】本研究は研究施設の倫理委員会の承認 (2020-012)を受け実施した.すべての対象者にヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮を行い,書面を用いて研究の内容および意義を説明し,同意を得た.