主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】 40歳以上の女性のおよそ30%に認められる外反母趾は、日本人が靴を履くようになり足の代表的な疾患になったと報告されている。外反母趾に対する治療法は保存療法と手術療法の選択肢があり、手術療法後の遺残症状として患部の疼痛、歩行機能障害を訴える症例も少なくない。 【目的】 外反母趾では足部アライメント不良により生じる筋収縮のアンバランスや歩行時の不安定性が生じる。今回、外反母趾術後の治療において歩行周期の立脚中期 (以下Mst)から立脚終期 (以下Tst)に着目して歩行時の安定性獲得に必要な可動域・筋力等の機能を検討したため報告する。 【対象及び方法】 対象者はいずれも外反母趾に対しscalf法にて外反母趾矯正術、並びに第2MP関節脱臼に整復術、第3中足骨痛症・内反小趾に骨切り術を施行した2例。加えて症例Bは第4中足骨痛症に対し骨切り術を施行した。術前・術後、術後3か月においてX線、機能評価は可動域 (足関節、母趾中足趾節関節:以下MP関節、母趾趾節間関節:以下IP関節)、筋力は外在筋・内在筋筋力、静的アーチ効率評価、JOAscore、JSSFscoreを実施した。 【後療法】 術後3週間は他院入院しリハビリ介入、退院後当クリニックにて外来通院しリハビリ介入を開始。術翌日より前足部への荷重制限目的で靴装具使用し荷重歩行開始。術後4週より靴装具除去し、通常の靴使用し荷重歩行許可。物理療法と運動療法を併用し、患部足趾可動域は術後2週間他動運動と外在筋トレーニングを中心に、3週目より自動運動開始し、同時に内在筋トレーニングを開始とした。歩行訓練はMstからTst歩行周期に着目し部分的に訓練を行なった。 【経過】 術後3週経過後当クリニック受診時の初回評価において2例とも疼痛は消失しており、術後腫脹は残存していたが術後2カ月で改善を認めた。症例Aの術後3か月時点での外反母趾角 (以下:HV)は18°、MP関節は屈曲30°・伸展35°。Tstの足趾伸展が可能となり歩容が安定した。症例BのHVは3°、MP関節は屈曲伸展ともに5°であった。筋力は症例Aで外在筋・内在筋ともに5レベル、症例Bは4レベルであり、症例Bのみ歩行時の不安定感の訴えが残存した。 【考察】 今回歩行周期で着目したMstからTstは単脚支持期であり足部の動的バランス機能が必要である。よって、外在筋・内在筋等の筋機能維持・改善目的に内在筋を意識した足趾運動を行なう。しかし足趾の可動域が乏しければ十分な訓練を遂行できず筋収縮も得られにくい。早期にMP関節の可動域が獲得できていた症例Aに対し症例Bは可動域獲得に難渋した。MstからTst時の前足部母趾の屈曲・伸展可動域制限による足部内在筋収縮能が乏しく、Mstでアーチ保持機能低下、トラス機構の機能不全により衝撃吸収能の低下が生じていた。また同機能不全における荷重偏位はTst時外側偏位すると報告されており、十分な前足部でのつま先離地が不能になると考える。症例Bの術後MP関節の可動域はともに5°と制限が残存し足部剛性が未獲得、また足趾伸展制限によるウィンドラス機能不全にてTstでのアーチ剛性が低下し、歩行時の不安定性が出現したと考えた。早期より足趾可動域の獲得を図ることや等尺性収縮にて筋収縮を促すことが機能不全を最小限に抑え歩行時の安定性獲得を図ることが重要であると考える。 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言の原則に基づき、対象者に個人情報の取り扱いに関して口頭で説明し、同意を得た上で行なった。