主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】慢性腰痛症などの難治性疼痛では心因性要素である破局的認知の影響が報告されている.破局的思考は痛みの強さや精神的なストレス状態と関連することが明らかにされており,恐怖回避思考を生み出す.恐怖回避思考とは,「痛みの経験による悲観的な解釈や不安,恐れなどの負の情動が,過剰な警戒心と痛みの回避行動,廃用およびうつ傾向を招き,さらなる痛みを誘発する」負のループとされる.近年難治性の上腕骨外側上顆炎 (以下LE)にも心因性要素の関連性が指摘されており,破局的認知への考慮が必要となるケースがあると考える.よって本研究の目的は,LEにおける破局的思考に影響する因子を検討することを目的とした. 【方法】LEの診断にて体外衝撃波療法(以下ESWT)を施行し5回以上治療経過の追えた84名84肘を対象とした.平均年齢は50.4歳,男性47人47肘,女性37人37肘,平均罹病期間4.1ヶ月であった.痛みに対する破局的思考は,Pain Catastrophizing Scale (以下PCS;最小値0,最高値52)を用い,ESWT5回目のPCSスコアにて判断した.なお先行研究に準じ,合計30以上を痛みに対する破局的思考ありと定義した.破局的思考あり群となし群の2群間について,患者背景の年齢,性別,職業,罹病期間と,手術率,初診時NRS,機能評価の握力・ピンチ力,更に上肢の機能障害を評価する上肢障害評価表 (Quick DASH)を用いて比較・検討した. 【結果】破局的思考なし群70名 (83.3%)あり群14名 (16.7%).2群間比較 (なし群:あり群)は,年齢(歳) 50.3:50.9,性別(男女比,%) 55.7/44.3:57.1/42.9,職業(肉体労働系/事務系/専業主婦,%) 68.6/30.0/0:78.6/14.3/7.1,罹病期間(ヵ月) 4.1:4.2で患者背景には差を認めなかった.手術率は4件/5.7% : 1件/7.1%で差を認めなかった.初回NRS 7.0:8.3(P<0.01),握力健患比 0.67:0.38(P<0.05),ピンチ力健患比 0.82:0.60で初回NRSと握力健患比に差を認めた.Q-DASH Disability/symptom 25.0:37.5(P<0.01),Q-DASH Work 25.0:53.1(P<0.05) .初回PCS (合計/反芻/無力感/拡大視)23.5/13.0/5.5/4.0:36.0/18.0/12.0/7.5(P<0.01)でQ-DASH,初回PCSのいずれにおいても有意差を認めた. 【考察】結果より年齢・男女差・職業別の差は認めず,罹病期間や手術率も差を認めなかった.一方で初回NRS,Q-DASH,初回PCSで差を認めたことから,痛みに対する破局的思考に影響する因子が患者背景や病期・病態のレベルよりも主観的影響が大きいことが考えられる.我々は先行研究において,生活障害の長期化が破局的思考と関連するのではないかと報告し,元々ある先行要因と後に発生した後発要因の2パターンの存在を考えている.実際に個別データではPCSスコアが初回から高いケース,痛みや生活障害の継続により高く推移するケースなどがあり,LEにおいても先行要因への対応や後発要因を防ぐ的確な診断や治療的手段を考えていく必要があると考える. 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理原則および計測研究に関する倫理指針に従い,研究計画を尊守して行った.対象者には,研究に先立ち研究内容の説明を口頭にて行い参加する旨の同意を得た.なお,本研究における利益相反に関する開示事項はない.