主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】 当院では手根管症候群に対して鏡視下手根管開放術 (以下ECTR)を主に施行している.ECTR術後疼痛の中で,母指球・小指球基部の屈筋支帯の手根骨付着部付近を中心に疼痛が出現するpillar painがある.pillar painはECTR特有であるがその発生メカニズムや定義は報告によって様々である.術後固定においても様々な報告があり、期間においては概ね1週間の外固定が多い.今回術後早期に発生するpillar painを母指球部,小指球部,術創部に区分し,それぞれが術後固定期間によってどう異なっているのかを調査した. 【方法】 当院で手根管症候群と診断され,ECTRを施行した症例35例35手 (男性18手,女性17手,平均年齢72.1歳)を対象とした.術後6週間の掌側ギプスシーネ固定を施行した14例14手を固定群(以下A群/男性5手,女性9手,平均年齢72.2歳),術後1週間の上記固定を施行した21例21手を除去群 (以下F群/男性;13手,女性;8手,平均年齢74.7歳)とした.評価内容は,pillar pain母指球・pillar pain小指球・pillar pain術創部 (VAS),Quick-DASH,HAND20とし,術後2週および術後8週に評価を実施し,2群間で比較した.統計はMann-WhitneyU検定を用い,有意水準は5%未満とした. 【結果】 pillar painを認めたのはA群で2週時に母指球7/14例(50%),小指球4/14例(29%),術創部7/14例(50%),8週時に母指球6/14例(43%),小指球7/14例(50%),術創部9/14例(64%),F群では2週時に母指球5/21例(24%),小指球6/21例(29%),術創部6/21例(29%),8週時に母指球9/21例(43%),小指球10/21例(48%),術創部12/21例(57%)であった.群間の比較では2週時および8週時ともに各項目いずれも有意な差は認められなかった. 【考察】 術後固定期間の違いにおいてpillar pain発生に差が出るか検討することが本研究の目的であったが,本研究において固定期間の違いによる疼痛の有意差は認められなかった.牧らは,術後1週間で外固定を除去し術後2ヶ月間の手の使用を制限することによってpillar painの発生が少なくなったと述べており,固定期間による差異は述べていない.また喜多島らは,術後翌日の朝まで包帯固定し術翌日より手の使用を許可した例では術後1か月でのpillar painを20%で認め,術後6か月でpillar painは消失したと述べている.このことから手の使用制限の有無を問わず,術後6ヶ月を目処にpillar painは消失していくと考えられるため,術後満足度を高めていくためには術後固定期間だけでなく,患者個々の生活様式などを考慮した上で個別に対応していく必要があると考える. 【結語】 本研究では固定期間中に外固定の着脱が可能であり,外固定が徹底されたかどうかが不確かである.このことから今後は問診を行い疼痛の背景を把握した上で個別に対応するとともに,固定の徹底を促して評価の信憑性を高めることで術後経過に合わせたより良いリハビリテーションを提供するための知見を引き続き得ていきたいと思う. 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者に本研究の趣旨を説明し同意を得た上で実施している.