主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】 踵骨骨折の関節内骨折は、慢性的な痛みや機能障害を残すことが多く治療満足度は低い。さらに、距骨下関節可動域制限が歩行満足度に影響を及ぼすと報告されている。今回、関節内骨折を呈する踵骨骨折術後患者の歩行時痛に対して外がえし制限に着目したセルフエクササイズが有効であった症例について報告する。 【症例紹介】 40代男性。階段踊り場から飛び降り、右踵骨骨折 (Depression Type 、Sanders分類ⅢAC)受傷。受傷11日目に骨接合術施行。術後17日目に自宅退院。他院外来理学療法継続後、本人希望により術後約7週から当院外来理学療法開始。後療法は術後6週後より1/3部分荷重開始し、術後10週後より全荷重が許可された。術後12週時点での主訴は『歩くときに右足首の内側から前にかけて痛い』であった。 【評価結果と問題点】 主訴の疼痛はNumeric rating scale (以下;NRS)7、歩行立脚中期~後期に訴えられる。安静時痛はなく、主訴と同様の疼痛が再現されるのは一つ目に非荷重位での足関節他動外がえし時にNRS3。二つ目に立位荷重下で足関節背屈と外がえしが必要とされるしゃがみ込み動作で再現された。しゃがみ込み動作の際、外がえしの抑制目的で足部内側に5度の傾斜台を試験的に挿入すると、しゃがみ込み動作時の疼痛が消失した。後脛骨筋筋腹及び三角靭帯に圧痛を認め、長趾屈筋と後脛骨筋の筋の長さテスト陽性であった。足関節可動域 (右/左)外がえし10度/25度、底屈45度/55度、背屈15度/20度、立位Leg heel angle2度/8度。Manual Muscle Testは足関節底屈4、外がえし5、内がえしは5だが最終域で収縮時痛を認めた。なお、Neurodynamic Testは陰性でTinel徴候や感覚障害はなく、最大荷重位や片脚ヒールレイズでは疼痛を認めなかった。以上の評価から問題点として、後脛骨筋の筋攣縮による伸張性の低下によって、三角靭帯周辺組織との間に滑走障害を生じさせた結果、荷重足関節外がえし時に疼痛を惹起していたのではないかと考えた。 【介入内容と結果】 徒手的に三角靭帯周辺の軟部組織滑走改善を図るアプローチを実施。さらに、主訴の疼痛が消失する内側傾斜台を使用したしゃがみ込み動作からのヒールレイズ運動を疼痛が無い範囲で行うことで可能な限り最大伸張と最大収縮が行えるようにした。この運動により後脛骨筋の攣縮及び周辺組織との滑走改善を図った。実施後は即時的に症状が消失~軽減するが、翌朝には再発される為、セルフエクササイズとして5度の傾斜台を作成し、外出前、帰宅後さらに症状が出現する際を目安に実施するように指導した。1週間に1~2回程度の理学療法を継続し、術後約17週時点で主訴の疼痛は消失した。その後は、日常生活で疼痛が再発することははなく、術後21週にはランニングも可能となり理学療法終了した。 【結論】 距骨下関節可動域が歩行満足度に影響を及ぼすと報告され、菅原らは回内不良群で歩行時痛が強いと述べている。本症例は外がえし制限改善へ後脛骨筋のアプローチが主訴の歩行時痛改善に至った事から、踵骨骨折後の歩行時内側部痛には、外がえし制限に対するアプローチが有効となる可能性が高いと考えられる。また、Sahrmannらによると疼痛は日常生活で望ましくない方法で行うことにより生じ、運動プログラムは毎日続けられ、身体メカニズムを意識することが必要だと述べている。本症例は疼痛増減の肢位理解に加え、傾斜台作成により日常生活の中で毎日続けられるセルフエクササイズを行うことが持続性にも有効であったと考える。 【倫理的配慮】患者に十分説明し口頭にて同意を得るとともに、当院の研究倫理審査委員会でも承認を得た (承認番号:学24―0401)