主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】変形性関節症や外傷後に認められる脚長差は歩行の本質であるスムーズな身体重心の移動を阻害する恐れがあり、症状の増減に影響をきたす可能性がある。その為、脚長差の有無や程度を把握することは重要であるが、一般的には20mm以内の脚長差に関しては歩行に影響はないとされている (Knutson,2005)。しかしながら、統一された見解はなく、臨床においてはわずかな脚長差でも歩行に影響をきたす症例が散見される。そこで今回1mm単位の高さの異なるヒールパッドを用い、具体的にどの程度の疑似的脚長差が歩行に影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。 【方法】対象は、健常男性10人 (年齢29.6±8.3歳,BMI21.9±2.1)とした。対象者の第4‐5腰椎棘突起間と利き足側の腓骨頭部に弾性ストラップとテープを用いて加速度センサを貼付しトレッドミル上にて快適歩行時の加速度成分を抽出した。サンプリング周波数は200Hzとし、腰部加速度の鉛直成分により初期接地(initial contact:IC)の時点を同定した (Rapp et al., 2015)。加速度成分より対称性・規則性を示す自己相関係数(Auto Correlation: AC, 対称性: AC1, 規則性: AC2)、動揺性を示すroot mean square (RMS)をそれぞれ算出した。歩行条件は、裸足とヒールパッド1mm・2mm・3mm・4mm・5mmを利き足側のみに貼付した6条件とした。厚さ1mmのヒールパッドは、厚さ0.2mmの非伸縮タイプのホワイトテーピングテープ (ニチバン株式会社製バトルウィン®テーピングテープ38mm×12m)を5枚重ね作成した。作成したヒールパッドを足関節底背屈0°位で踵骨内側突起前縁にテープの前縁が一致するように踵底部に貼付した。計測は裸足、ヒールパッド1mm・2mm・3mm・4mm・5mmの順番で実施した。トレッドミル上歩行開始後1分後の10歩行周期を解析区間とした。上記6条件にて反復測定分散分析Friedman検定を用い主効果を確認し、その後多重比較検定Bonferroni post hoc testsを行った。統計学的有意水準は5%とした。 【結果】RMSの鉛直成分(0.17±0.03/0.18±0.03/0.18±0.03/0.18±0.02 /0.18±0.03/0.19±0.03,p=.009[裸足/0mm/1mm/2mm/3mm/4mm /5mm])、AC1の鉛直成分(0.65±0.08/0.67±0.08/0.68±0.068/0.67 ±0.06 /0.59±0.09/0.65±0.07,p=.046 [裸足/0mm/1mm/2mm/3mm /4mm/5mm])、前後成分 (0.65±0.12/0.66±0.12/0.63±0.14/0.59 ±0.142/0.56±0.13/0.57±0.15,p=.008 [裸足/0mm/1mm/2mm /3mm/4mm/5mm])に有意な主効果を認めた。多重比較検定では各条件間にて有意差を認めなかった。 【考察】動揺性の鉛直成分、対称性の鉛直成分・前後成分に主効果を認めたことから1mm単位のヒールパッドが歩行に影響を及ぼすことが明らかとなった。一方で、各条件間においては有意差が認められなかった。その要因としては今回テーピングを用いて疑似的に脚長差を生じさせたが、踵骨自体の形状や踵骨下脂肪体の厚さ・硬さなどの個体差が影響したことが推察される。このことより、対象者次第で各条件(ヒールパッドの厚さ)に呼応する反応が異なり画一的ではなかったことが要因として考えられる。本研究により、5mm以下の脚長差でも歩行に影響するため、その有無を把握することは重要であり、足底挿板療法などにおいてヒールウェッジを挿入する際にも、mm単位における調整および踵骨やその周囲組織の個々の解剖学的特性を加味した調整の必要性が示唆された。 【倫理的配慮】本研究は臨床研究に関する倫理指針に従って行った。対象者には研究の趣旨について説明し書面にて同意を得た。なお本研究は当該施設の倫理委員会の承認 (番号:113)を得て実施した。