主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】変形性膝関節症(膝OA)患者では,歩行荷重応答期(LR)にVarus Thrust (VT)が増大することが報告(Misu at al.,2022)されている.VTの増大は,外部膝関節内反モーメント(KAM)の増大と関連するため(Chang et al., 2004),膝OAの進行に関与することが明らかとなっている.また,膝OA患者では,LR時の膝関節屈曲角度変化量(KFE)および外部膝関節屈曲モーメント(KFM)が減少し(Kaufman et al.,2001),適切な衝撃吸収がなされていない可能性がある.これらの歩行パターンは,膝OAの進行に関与するため(Wink et al.,2018;Favre et al.,2017),膝OAに対する理学療法を行う上で重要である.前十字靭帯再建術後患者を対象とした先行研究では,慣性センサから得られたLR時の下腿矢状面角速度ピーク値は,非術側よりも有意に減少し,三次元動作解析システムから得られたKFMと有意な相関関係を示した(Sigward et al.,2016).しかし,片側膝OA患者において,膝OA側と症状の無い反対側のLR時の下腿矢状面角速度ピーク値に差が生じるかは明らかにされていない.そこで本研究では,片側膝OA患者の膝OA側LR時のVTと下腿矢状面角速度ピーク値の特徴を明らかにすることを目的とした. 【方法】対象は,片側膝OA患者20人(男性6人,女性14人)であった.平均年齢は71.5±4.66歳,身長は1.55±0.09 m,BMIは26.0±3.86 kg/m2であった.解析項目は,膝関節伸展筋力,VTの大きさを示すAdjusted Root Mean Square(A-RMS),LR時の下腿矢状面角速度ピーク値とした.膝関節伸展筋力は徒手筋力計(アニマ社)を用いた.対象者は至適速度での歩行を実施し,歩行計測には2個の慣性センサ(スポーツセンシング社,周波数:200Hz)を用いて,対象者の踵骨隆起,脛骨粗面に固定した.歩行計測は,5歩目からの一歩行周期とし,3試行の平均値を算出した.A-RMSは,脛骨粗面の内外側方向の加速度データと遊脚期における3軸の角速度データを用いて算出した(Misu at al.,2022).LR時の下腿矢状面角速度ピーク値は,脛骨粗面の矢状面上における角速度データのピーク値を算出した.統計学的解析は,各測定値の正規性を確認し,膝OA側と症状の無い反対側の差を対応のあるt検定を用い検討した.有意水準は5%とした. 【結果】膝OA側では,反対側と比較し,A-RMS (d = 1.09,p = .002)は有意に増大し,下腿矢状面角速度ピーク値 (d = 0.71,p = .020)は有意に減少していた.一方で,膝関節伸展筋力 (d = 0.28,p = .071)に有意差は認められなかった. 【考察】膝OA側では,反対側と比較し,A-RMSは有意に増大し,下腿矢状面角速度ピーク値は有意に減少していた.膝OA患者のLRでは,膝関節の共同収縮が増大し,KFEとKFMが減少していることが報告 (Schmitt et al., 2007)されている.そのため,本研究の膝OA側での下腿矢状面角速度ピーク値の減少は共同収縮の増大を反映している可能性がある.また,LRでのKFEの減少は,KAMの増大と関連することが報告 (Anan et al., 2024)されているため,共同収縮の増大が前額面上のVTの増大に影響を及ぼした可能性がある.一方で,膝関節伸展筋力は有意差が認められなかった.膝OA患者におけるLR時の膝関節屈曲角度と膝関節伸展筋力は,有意な相関関係が認められなかったとの報告がある (Bennell et al., 2004).以上より,膝関節伸展筋力よりも膝関節周囲筋の共同収縮が,片側膝OA患者の歩行に影響している可能性が示唆された. 【結語】 片側膝OA患者の膝OA側LRでは,VTの増大と下腿矢状面角速度ピーク値の減少が明らかとなり,膝関節周囲筋の共同収縮が影響している可能性が示唆された. 【倫理的配慮】本研究は,当該施設の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:F230007).全ての対象者には研究の趣旨について説明を行い,書面にて同意を得た上で実施した.