主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】 一般に回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)退院後の脳血管患者のADL能力は徐々に低下するとされており、退院前が最も高い能力を有するとされる。また在宅復帰の要因としては、運動麻痺が軽度であり、ADLの自立度が高く、また同居家族が複数いるなどの報告がある。さらに退院時に車椅子レベルの患者においてはトイレ動作が重要な因子との報告もある。今回、脳梗塞により当院回復期リハ病棟に入院となり重度片麻痺、車椅子レベル、認知症の妻が主介護者という症例を担当し、入院中及び退院後の訪問リハビリまで関わる機会を得た。症例が退院時よりも訪問リハビリ終了時に身体機能やADL動作能力が向上した結果や、在宅生活を継続できた要因について考察を交え報告する。 【症例紹介】 X年Y月Z日右橋梗塞発症。Z+63日当院回復期リハ病棟入院。入院時PT評価ではSIAS-M:0-0-0-1-0、FBS:3点、FIM22点(運動項目13点)。難聴のため病前よりコミュニケーションはジェスチャーが主体であった。Z+241日退院。退院時SIAS-M:1-1-2-3-1、FBS:31点、FIM67点(運動項目51点、車椅子5点、トイレ動作2点)、Hb-LSA:44点。要介護度4の認定を受け訪問リハビリ週1回、デイケア週3回利用。妻との二人暮らしであり自宅近隣に娘夫婦が暮らしている。尚、発表に際し患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、家族から書面にて同意を得た。 【経過】 入院当初より本人・家族共に在宅復帰の希望が強かった。入院中は毎月のカンファレンスに家族の参加を促した。退院前には家族指導として移動介助やトイレ動作指導を病棟と協働して行った。住環境には住宅改修、福祉用具の導入を行い、訪問リハビリでは車椅子移動やトイレ動作の方法について本人、妻に指導を行った。車椅子移動はフットレストがトイレの間口に当たるため、常時フットレストを外すようにした。また訪問リハビリの際には妻の状態も確認し、適宜ケアマネージャーと情報共有を行った。訪問リハビリは退院後6か月間利用し、生活状況安定のため終了となった。 【結果】 訪問リハビリ終了時SIAS-M:2-1-4-4-1、FBS:29点、FIM82点(運動項目60点、車椅子・トイレ動作ともに6点)、Hb-LSA:60点。妻は要介護度1の認定を受け、週3回デイサービスを利用している。 【考察】 回復期リハ病棟退院時には運動麻痺が重度で生活全般に介助が必要であり、主介護者である妻は認知症のため介護力や在宅生活の継続に不安があった。しかしながら、在宅生活を行う中で回復期リハ病棟退院時よりも身体機能が向上し屋内生活空間の身体活動指標であるHb-LSAが改善した。小針らによると慢性期脳卒中片麻痺症例に下肢集中訓練を実施しバランス能力、歩行能力の改善を認めたと報告している。本症例では車椅子自走により常に麻痺側足部の挙上(股関節屈曲や膝関節伸展)が求められ、これにより筋への促通が繰り返されたことでSIAS-Mが向上し、さらに動的立位バランスが必要なトイレ動作の自立に至ったと考える。また、杉浦らによると回復期リハ病棟退院時の移動手段が車椅子レベルである患者の自宅復帰条件として、患者家族と入院当初から自宅復帰の展望を共有することが重要であると述べている。本症例においては入院中にカンファレンスや家族指導を実施し、在宅生活のイメージを家族と医療従事者で共有できたことが有意義であったと考える。本症例を通じ高齢化や老々介護の社会背景の中、住み慣れた地域での生活を支援する理学療法士としての役割を再認識できた。 【倫理的配慮】発表に際し患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、家族から書面にて同意を得た。