九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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脳血管障害患者の振り向き動作
*玉利 誠
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p. 103

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抄録
【はじめに】
 脳血管障害患者が自宅復帰するためには、歩行だけでなく様々な応用動作の獲得も望まれる。中でも「振り向く」という動作は方向転換や立位での着衣動作時に必要な要素と考えられるが、体幹や下肢筋群の麻痺のため重心の制御能力に劣る脳血管障害患者にとっては非常に困難な動作であると思われる。
 そこで今回、脳血管障害患者と健常者の振り向き動作を三次元動作解析装置にて比較・検討した結果、動作方法に違いを認めたのでここに報告する。
【対象】
 屋内歩行監視以上の脳血管障害患者13名(男性8名、女性5名、60.1±11.4歳、発症後152.3±71.0日)及び健常人男性9名(26.8±4.0歳)。
【方法】
 両上肢腕組み、下肢は上前腸骨棘からの垂線が第2中足骨延長線上を通るように足幅を位置した裸足立位から、合図と同時に3m後方目線上のマークをできるだけ速く振り向き見るよう指示し、左右両方向についてそれぞれ2回の動作練習後1回ずつ施行した。計測にはアニマ社製三次元動作解析システムLocus MA-6250(アニマ社製・カメラ4台・サンプリング周波数60Hz)を使用し、マーカーは頭頂・肩峰・股関節・膝裂隙・外果・第5中足骨底の11箇所に設定した。解析においては、床反力・下肢モーメント・下肢関節角度・COP軌跡をパラメーターとして抽出し、健常人の左右方向についてt検定を行った後、患者の麻痺側方向・非麻痺側方向、及び健常者の3群について分散分析を行い、多重比較を行った。
【結果】
1.健常人の振り向き動作
 t検定の結果、すべてのパラメーターに有意差を認めなかった。鉛直方向床反力は回転方向と反対側に高値を示した。合成COPは反対側下肢の鉛直方向床反力成分の増加に伴って回転側後方へ移動し、更にそれと同期して体幹・骨盤の回旋と反対側膝関節屈曲、足関節底屈が開始されていた。その後前後方向床反力において反対側で前方成分が、回転側で後方成分の増加が認められ、反対側膝関節伸展モーメント、足関節底屈モーメントの増加とともに合成COPが反対側前方へ移動していた。
2.患者(非麻痺側方向)と健常人の比較
 患者群では鉛直方向床反力が回転側下肢に高値を示していた。(P<0.01)前後方向床反力(最大値-最小値)及び体幹・骨盤の回旋角度、反対側膝屈曲・足関節背屈角度は有意に低値を示した。(P<0.01)反対側膝伸展モーメント最大値及び反対側足関節底屈モーメント最大値も同様であった。(P<0.01)
3.患者(麻痺側方向)と健常人の比較
 鉛直方向床反力は反対側優位であり、その割合は有意に大きかった。(P<0.05)前後方向床反力(最大値-最小値)については、回転側において有意に低値を示した。(P<0.01)下肢モーメントは反対側の膝・足関節いずれも有意差を認めなかった。関節角度では肩峰・体幹及び反対側膝・足関節すべてにおいて有意に低値を示した。(P<0.01)更に合成COP前後方向成分(最大値-開始時)において有意差を認めた。(P<0.05)
【考察】
 健常人は動作時に反対側下肢を支持脚とするが、動作初期から反対側膝関節屈曲を開始することで「足部→足関節→膝関節→股関節→体幹部」と順次生じる回旋運動の連鎖を相殺し、肩峰・骨盤の回旋というよりも反対側肩峰・骨盤の「突出」、回転側肩峰・骨盤の「後退」を同時に行うといった方法で運動を効率的なものにしていると思われる。
 対して患者群では、麻痺側支持性低下のため非麻痺側下肢への荷重が過剰であり、更には随意性の低下により麻痺側の膝関節や足関節による重心の制動が効率的に行えないものと考えられる。
 そのため、非麻痺側方向への振り向き動作では回転側下肢にて支持と制動を行うことを強いられ、骨盤の後退が制限されているものと思われる。また、体幹が回旋していくにつれて回転側股関節は相対的に内旋するため、全体的に運動範囲が小さくなったものと予想される。
 麻痺側方向への振り向き動作においては反対側下肢が非麻痺側となるため、重心の制動は比較的健常人に近いと思われるが、「支持」という面で健常人以上に機能せねばならず、下肢回旋運動の連鎖を相殺する膝関節の運動性を失うものと考えられる。更には麻痺によって上部体幹と分離した麻痺側骨盤の後退自体が難しいため、合成COPを初期時から前方へ移行し、回り込むように振り向くことで代償していると思われた。
【まとめ】
 振り向き動作を効率的に行うためには回転方向と反対側下肢による支持及び制動が重要と思われ、特に膝関節においては運動性が必要であると思われた。
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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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