抄録
【はじめに】
脳卒中片麻痺者の歩行の自立度を判断する際、客観的な指標に乏しく、そのため主観的な判断に依存することが多い。我々は先の本学会で、脳卒中片麻痺者の実用歩行レベルの目安として、年齢50~60歳台、頚・体幹・骨盤機能検査(NTPステージ)5以上、10m歩行速度実計測値18秒未満であることを明らかにしてきた。今回、10m最大歩行速度、台からの立ち上がり能力、10m最大歩行速度、片脚立位(麻痺側・非麻痺側)、Timed Up & Go Test(以下、TUGT)について検討を行い、若干の知見を得たので報告する。
【対象と方法】
当施設利用の脳卒中片麻痺者31名(右片麻痺14名、左片麻痺19名、年齢62.2±10.4歳、罹病日数693±1159日)を対象とし、これを実生活場面で移動を歩行のみで実践している群(Independent gait group:以下IG群)13名、車椅子を併用している歩行監視群(Mix gait group:以下MG群)19名とに分けた。なお、IG群においては、屋内歩行自立群のみを対象とし、屋外歩行自立群は除外した。
これら対象者に対して(1)台からの立ち上がり能力(2)片脚立位能力(麻痺側)(3)片脚立位能力(非麻痺側)(4)10m最大歩行速度、(5)TUGTについての5項目を計測し、その結果を比較・検討した。(1)は、足を肩幅とした端坐位から上肢を使用せずに立ち上がる事ができる最小の台の高さとし、50cmから開始して5cm単位で低くしていった。それぞれの計測は実用面を考慮し、通常の補装具を装着した状態で実施し、IG・MG群間で比較した。統計学的検討は、Mann-Whitney検定を用い有意水準を5%とした。
【結果と考察】
両群間で、片脚立位能力(麻痺側・非麻痺側)以外の項目に有意差がみられた。それぞれ、IG群の推定値は、台からの立ち上がり能力25cm以下、10m最大歩行速度24.51秒未満、TUGT34.38秒未満、であった。また、片脚立位能力(非麻痺側)においては、有意水準5%では両群間で差が得られなかったものの、自立度の基準となり得る傾向がみられた。
今回、脳卒中片麻痺者の実用歩行レベルの判定基準を模索する目的で本研究に取り組んだが、今後は高次脳機能障害や精神機能障害の関与についても検討を行い、より信頼度を高めてゆくとともに、臨床での有用性の検討が必要であると考える。