抄録
【はじめに】
医療・介護業務に従事する職員より腰痛の訴えを聞くことは少なくない。当院のスタッフ(看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)を対象に、静止時の状態から動作後のアライメントの変化に着目し腰痛との関係において若干の知見を得たので、以下に報告する。
【対象】
対象は無作為に選択し、看護師4名・理学療法士5名・作業療法士2名・言語聴覚士1名の計12名。うち男性5名、女性7名、平均年齢26±19歳であった。
【方法】
記録は検出したデータを視覚的に理解し易いよう全て方眼紙を使用しそれぞれの座標をとった。得られた数値に関しては絶対値とし、全て正の数値で記録した。また、検査時の腰痛の有無を確認した。
端座位(坐骨支持)にて股関節・膝関節とも屈曲90°の姿勢で水平面を通る第2仙骨棘突起を中心として左右の後上腸骨棘下端の位置を測定し傾きを計算した。(第2仙骨棘突起をグラフ上でX軸Y軸の0.0とし記録した。)次に、端座位の姿勢から座面と仙骨後面が60°となるまで体幹を屈曲させ、動作後、第2仙骨棘突起・左右の後上腸骨棘下端の移動距離を測定した。この時、同様に第2仙骨棘突起を中心とした左右の後上腸骨棘下端の傾きを計算した(この時の傾きは動作後の第2仙骨棘突起をX軸Y軸の0.0とし計算した)
【結果】腰痛ありと答えたのは男性:4名、女性:2名であった。(全体の50%が腰痛ありと回答)
静止時に第2仙骨棘突起と左右の後上腸骨棘下端との間に傾きを認めたのは5/12例であり、最も大きな傾きを示したのは29歳男性(腰痛あり)の傾き0.6であった。また、腰痛ありと回答した中で、傾きを認めたのは4/6例であったが4例とも傾きにそれぞれ左右差があった。腰痛なしと回答した群で傾きを認めたのは1/6例であったが、左右の傾きともに0.3と左右差は認められなかった。
動作後の第2仙骨棘突起はすべての対象者において上方(頭側)への移動が認められた。移動距離は平均0.8±0.3cmであった。また、腰痛の有無に関わらず全ての対象者において、傾きを認めることができた。最も大きな傾きを示したのは男性29歳の腰痛ありと回答した男性で、安静時と同じ症例という結果であった。うち腰痛ありと答えた群で傾きの左右差を生じているのは5/6例であり傾き平均0.34であった。腰痛なしと答えた群では2/6例で傾き平均0.098という結果であった。
【考察】
静止時と動作後のアライメントの変化を第2仙骨棘突起と左右の後上腸骨棘下端を指標にして評価を行った結果、静止時では腰痛なしと回答した群では1/6例に傾きを認めたが、その他の指標は水平面に平行に一直線上に並んでいた。また、傾きを認めた1例において左右差はなく、すべての腰痛なしと回答した対象者では左右のアライメントの不均衡は見られなかった。また、腰痛ありと答えた対象者に関しては半数がアライメントの不均衡を生じていた。このことから、今回の結果においては静的な姿勢のみでの評価では傾き・アライメントの不均衡が腰痛を示し易いという傾向は感じられるが断定はできない。
動作後の評価では、全ての対象者において第2仙骨棘突起を中心として左右ともに傾きが生じていた。これは、仙腸関節において滑りの運動が生じていることを示していると思われる。腰痛ありと答えた群では5/6例にアライメントの左右差を認める結果から、仙腸関節の滑り運動の不均衡は腰痛との関わりが強いと思われる。
また、動作後の腰痛あり群・腰痛なし群の両者の傾きを比較すると17対29の比率であった。Kapandjiは仙骨が寝た位置すなわち水平位に近いものを可動性の大きいdynamic typeとし、仙骨が垂直に近いものを可動性の小さいstatic typeとして2形に分類しているが、今回の結果によるとstatic typeに分類される対象者に腰痛が生じ易いと思われる。
以上の事から、静止時・動作時における第2仙骨棘突起と後上腸骨棘下端が示す傾きよりもアライメントの左右の不均衡が腰痛と関連しており、特に動作時にこの傾向が強いことから、仙腸関節の滑り運動のアンバランスが大きく影響していると思われる。
【終わりに】
今回、アライメントに着目し評価を行ったが静止時と動作時の両者の結果に相違があり、今後いままで行っていた腰痛に対する評価を再検討する必要性を感じた。
また、医療従事者を対象としたが、半数近い対象者が腰痛を訴えていることが明らかになった。これらは将来的に腰部疾患を発症する可能性を持った予備軍であることが示唆され、健康管理のあり方を考えさせられるものであった。現在、当院で取り組みとして訓練室に天井を走行可能なリフトを取り付け起立・歩行訓練を行う際、介助者の負担量軽減を図っている。