九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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異なる運動負荷様式による生理学的変化の差異
*中原 和美
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p. 38

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抄録
【はじめに】
 運動負荷試験の代表的な方法として自転車エルゴメーターやトレッドミルを使用した方法があるが、多くの場合、歩行障害が後遺症として残る脳卒中片麻痺患者に対して実施することは困難であることが多い。また下肢エルゴメーターやトレッドミルを用いた運動負荷試験に代わる信頼性の高い代替方法としてアームエルゴメーターを用いたものやADL上の動きに類似した運動形態の運動負荷試験である非支持かつ動的な漸増運動負荷試験(以下 UIULX test)がある。しかし、同じ対象者に種類の異なる運動負荷試験を実施し、その強度を比較した先行研究は少ない。今後、歩行困難な対象者に対し応用し、運動処方を行う上でも各運動間での生理学的変化の特徴、運動強度の関連性を明らかにすることが必要である。
【目的】
 上肢運動、下肢運動、全身運動を実施し、その時の呼吸循環応答、血中乳酸濃度、四肢と呼吸状態について主観的運動強度(以下 RPE)を比較することにより各運動間の運動強度の関連性を見出すことを目的とする。
【対象】
 対象者は女性健常者6名(平均年齢19.8±0.4歳)であった。対象者の身体的特徴の平均値は身長160.0±7.8cm、体重51.5±10.4kg、BMI19.9±3.1およびLBM39.6±4.5kgであった。
【方法】
 測定に際し測定器具に十分慣れるよう事前に数回練習を行った。運動負荷試験として上肢運動2種類(アームエルゴメーター、UIULXtest)、下肢運動1種類(自転車エルゴメーター)および全身運動1種類(トレッドミル)を各段階5分、休憩時間3分の間欠的多段階法で実施した。各運動は60回/分となるようにピッチ音に合わせて行った。そして、運動負荷試験中の呼気ガス、心拍数、血圧、血中乳酸濃度およびRPEを測定した。呼気ガス分析には自動呼気ガス分析器(ミナト医科学社製エアロモニターAE-300S)を用い、breth-by-breth法にて行なった。心拍数はベットサイドモニターLifeScope8(日本光電社製)を用いテレメトリー法にてモニターし、30秒ごとに記録した。血中乳酸濃度は各段階の運動終了時に耳朶より血液を採取し、乳酸分析器(ARKRAY社製LT-1710)を用いて測定した。血圧、RPEは各運動段階の前後で測定した。血圧は聴診法にて測定し、RPEはBorgのRPEスケールを用い四肢、呼吸のそれぞれについて尋ねた。心拍数とそれぞれの測定値を比較し、各運動間の運動強度について検討した。
【結果】
 対象者の身体的特徴は20歳女性の平均値と有意差はなく同年代女性の平均的な体格であった。同一心拍数時の各運動の測定値は60%HRmaxにおいては、酸素摂取量および換気量は上肢運動と比較し全身運動、下肢運動が大きいが、換気当量、四肢のRPEについては平均16と上肢運動の方が有意に大きい値を示した。また血中乳酸濃度は自転車エルゴメーター、アームエルゴメーターの値が他の運動と比較し大きい値を示した。運動終了時の血圧は各運動間で差は認められなかった。
【考察】
 運動処方時の目安となる60%HRmaxでは健常者においても対象者の主観的な疲労度であるRPEは16となってしまい上肢運動では目標とする心拍数に達することは困難であることが示唆された。HR値が低い運動強度において上肢運動は下肢運動、全身運動と比べ四肢のRPE、血中乳酸濃度は高値を示し、運動の制限因子としては呼吸循環因子よりも筋疲労が大きく影響したと思われる。特に今回の対象者のような女性や高齢者のような筋量の少ない者に対しては上肢運動よりも下肢運動・全身運動のような運動時の活動筋量が多い運動の方が疲労なく目標心拍数に達することができ運動処方時には有効であると考えられる。
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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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