九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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要介護高齢者に対する筋力向上プログラムの効果について
*川副 巧成山内 淳松尾 亜弓池田 定倫
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p. 48

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抄録

【目的】
 介護保険は,施行5年後の見直しに向け様々な角度から制度に対する議論が積み重ねられている.その背景には,要介護高齢者の増加や介護保険給付費,保険料の増大などの現状がある.この現状は,介護保険制度が本来の理念とする自立支援を行うには至らず,希望優先のマネジメントと過剰介護サービスによる要介護化の進行が原因であろう.そのため厚生労働省は,高齢者筋力向上トレーニングを自立支援のための介護予防サービスに位置づけ,市町村レベルでその推進を図っている.しかしながら,高齢者筋力向上トレーニングの現状は,マシントレーニングによる効果に編重し,運動プログラムとしての在り方についての議論が少ない.そこで今回われわれは,要介護高齢者に対し,マシントレーニングに各種体操を加えた筋力向上プログラムを実施し,その効果について検討したので報告する.
【対象と方法】
 1.対象 対象は,N市在住の要支援・要介護認定を受けた在宅高齢者26名(男性7名,女性19名),年齢70から96歳(平均年齢81.2±7.7歳),であった.方法は次の通りである.
2.方法 1)トレーニングプログラムの概要
 対象者に平成15年7月以降3ヶ月間,週2回,当施設のデイサービスにてトレーニングプログラムを実施した.プログラムの前半は,準備運動,ストレッチング,チューブ体操中心の集団体操,後半はマシントレーニングを行った.使用したマシンはPROXOMED社製Horizontal leg press,酒井医療株式会社製Torso Extesion/Flexion,Rowing MF,Leg Extesion/Flexion及びHOGGAN HEALTH INDUSTRIES社製のBILATERAL CHEST MACHINEの5機種を使用した.尚,マシントレーニングにおけるトレーニングの頻度,初期負荷値,回数,セット数,負荷量の増減等はパワーリハビリテーション研究会の手法に準じ行った.
2)評価内容 評価内容は,a)左右握力,b)ファンクショナルリーチ(Functional reach , 以下 FR),c)座位体前屈,d)タイムアップアンドゴー(Time Up & Go, 以下 TUG)e)左右開眼片足立ち,の5項目の体力評価を行った.評価はトレーニング開始時と3ヶ月後の2回実施した.検討項目は,体力評価の各項目得点の経時的変化について検討した.統計処理にはWilcoxonの符号順位検定を用い,危険率は5%未満をもって有意とした.
【結果】
a)握力
 右握力 1回目の平均は15.9±7.9kg,2回目の平均は17.8±8.1kgであった.また左握力 1回目の平均は13.4±8.7kg,2回目の平均は14.4±9.5kgであった.また左右握力は1回目と2回目の結果で有意差を認めた(p<0.05).
b)FR FR 1回目の平均は11.9±11.1cm,2回目の平均得点は17.6±11.7cmであった.またFRは1回目と2回目の結果で有意差を認めた(p<0.01).
c)座位体前屈 座位体前屈1回目の平均は5.4±7.7cm,2回目の平均得点は7.2±5.6cmであった.また座位体前屈は1回目と2回目の結果で有意な差を認めた(p<0.05).
d)TUG TUG 1回目の平均は11.8±14.2秒,2回目の平均は8.6±8.5秒であった.またTUG1回目と2回目の結果で有意差を認めた(p<0.01).
e)開眼片足立ち 右開眼片足立ち1回目の平均は3.0±8.2秒,2回目の平均は3.7±8.5秒であった.左開眼片足立ち1回目の平均は1.7±3.2秒,2回目の平均は3.8±4.7秒であった.また左右開眼片足立ち 1回目と2回目の結果で有意差を認めた(p<0.05).
【考察】
 今回,体力評価のすべての項目において有意差が認められ,要介護高齢者の体力は改善傾向を示す結果となった.諸家らによれば,要介護高齢者の体力改善については,高齢者に適したプログラムで,且つ継続した運動機会の確保により,その効果が得られるとの報告が多い.今回実践した筋力向上プログラムは,予防体操や自覚的運動強度(Brog指数)を用いたマシントレーニングなど,その内容が低負荷で,高齢者が継続可能な運動内容であったといえる.そして,体力評価項目全般に改善傾向がみられたことで諸家らの報告を概ね示唆する結果となった.しかしながら,一方で筋力向上トレーニングの特徴であるマシントレーニングについては,パワーリハビリテーションなどの手法を中心に議論の余地がある現状は否めない.さらには,改善したすべての要素はマシントレーニングだけに帰結するものではなく,プログラム全般を通した「運動」が高齢者の体力改善に深く関与していると考える.すなわち,効果的な筋力向上トレーニングの実践には,要介護高齢者に適切で継続可能なプログラムの在り方が検討されるべきである.加えて,マシントレーニングの効果についても,今後さらなる検証が必要であると考える.

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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