抄録
【はじめに】
臨床的に起き上がりなどの床上動作では、体幹機能が重視されている。しかしながら、体幹と連結している四肢との関連もまた重要である。本研究では、片麻痺患者にとって、体幹のコントロールを要する起き上がり動作の所要時間と、麻痺側機能との関連を検討した。
【対象】
脳血管障害による片麻痺患者22名(右片麻痺10名、左片麻痺12名、男性15名、女性7名)を対象とした。年齢は67.0±9.8歳で、発症から99.6±54.7日経過していた。
【方法】
ベッド上で背臥位から非麻痺側への起きあがりを、動き出した時点で計測開始とした。端坐位で静止したところで計測終了とした。背臥位から端坐位になるまでの時間を2回測定し、最小値を起き上がり動作所要時間とした。片麻痺機能検査としてはBrunnstrom stage(以下、Br,stと略す)を上肢・下肢・手指に用いた。これらBr,stと、起きあがり時間との相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討し、危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
上肢と手指のBr,stと起き上がり所要時間では、手指のBr,stの方に高い相関がみられたが、どちらも有意な相関は認められなかった。下肢の機能と起き上がり所要時間ではr=-0.521 p<0.05という負の相関が認められた。
【考察】
本研究では下肢のBr,stが高いほど、起き上がり所要時間も短いという有意な負の相関が得られた。起き上がりでは体重比でも重たい頭部や体幹を持ち上げなければならないため、大きな回転モーメントを必要とする。下肢の随意性が高まれば、麻痺側下肢の重みを利用して下肢帯を固定することができ、起き上がりがより効率的に行なえると考えられる。その結果、短時間での起き上がりが可能になったと考えられる。また、下肢のBr,stが高くなると、より高度でタイミングの良い分離が可能になってくる。効果的にその重量を利用することが可能となれば、体幹との協調動作によって、短時間での起き上がり動作が可能となったのではないかと考えられる。
上肢や手指のBr,stと起き上がり時間との相関は認められなかった。これには様々な要因が考えられるが、その一つとしてBr,stIからIIでは筋緊張が低下していることが多く、動作開始時のポジショニングが良好ならば、動作の阻害因子とはなりにくい。また、Br,stIV以上では寝返り動作に麻痺側上肢も参加できる為、起き上がり時間は早くなったのではないかと考えた。Br,stIIIが最も痙性の高い時期であり、その筋緊張の亢進により寝返り動作を阻害する事が多々ある為と考えた。これらの要因により、上肢のBr,stは起き上がり時間と直線的な比例関係を取り得無かったのではないかと考えられる。
