大気環境学会誌
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総説
大気汚染の健康影響に関する疫学研究—自動車排出ガスと微小粒子状物質(PM2.5)を中心に—
島 正之
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2015 年 50 巻 2 号 p. 67-75

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抄録
わが国では硫黄酸化物による大気汚染は改善されたが、自動車交通量の増加に伴い、二酸化窒素や浮遊粒子状物質による大気汚染が問題となり、特に交通量の多い大都市部の幹線道路沿道部における大気汚染の住民の健康への影響が憂慮されている。千葉県で行った疫学研究では、学童の喘息症状の有症率および発症率は幹線道路沿道部において高かった。アレルギー素因等の関連要因を調整しても沿道部における喘息の発症率は統計学的に有意に高く,大気汚染が学童の喘息症状の発症に関与することが示唆された。その後、環境省が実施した大規模な疫学調査(そらプロジェクト)の学童調査では、自動車排出ガスの指標として推計された元素状炭素(EC)の個人曝露量と喘息発症との有意な関連性が認められた。近年注目されている微小粒子状物質(PM2.5)の健康影響については、比較的低濃度であっても短期的曝露により喘息児の肺機能の低下や喘鳴症状の出現との関連が認められた。喘息による救急受診は大気中オゾン濃度との関連が認められたが、PM2.5との関連は必ずしも明確ではなかった。今後はPM2.5の成分や粒径分布、さらには発生源と健康影響の関連を明らかにすることが望まれる。大気汚染に関する疫学研究には健康影響評価だけでなく、精緻な曝露評価が必要である。今後は国内外で様々な分野の研究者が協力して、大気汚染の健康影響を解明するための共同研究が活発に行われることを期待したい。
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© 2015 大気環境学会
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